第1章 前編
「悟天!?」
トランクスの酷く驚いた声。
でもユメはまだ、地面を見つめたまま動けなかった……。
どうやらそこの茂みに隠れて見ていたらしい悟天は、つかつかと駆け寄って来てそのままトランクスに掴みかかった。
「何でさ!? トランクス君、ユメのこと好きでしょ!? 前にそう言ってたよね!?」
「そ、それは、友達として言ったんだ……」
「何それ!?」
目の前で悟天がすごい剣幕で怒っている。
なのに、今のユメにはその大声すら遠く聞こえて……。
「オレはお前のように、誰かと付き合うとか……そういうの、わからないんだ」
「……っ!」
悟天の声がそこで止まる。
ユメはやっと、チョコを持ったままだった両手を下ろし、ゆっくり顔を上げる。
目の前に、悟天の背中が見えた。トランクスの顔が丁度隠れて、今は心底有り難かった。
「悟天……もう、いいよ」
精一杯明るい声で、その背中に手を伸ばす。――と。
「なら……」
悟天の、珍しく低い声。
「ユメは、僕がもらうからね」
「!?」
ユメは驚いて伸ばした手を止める。
「悟天……何言って……?」
「いいよね、トランクス君」
トランクスは何も言わない。……その表情は見えない。
「悟天!」
ユメはもう一度、友人の名を呼ぶ。
と、悟天は急に振り返り、ユメの手を取った。
「行こう、ユメ」
「でも……!」
「いいから!!」
悟天は有無を言わさない強さでユメの手を握り公園を出ていく。
背中にトランクスの視線を感じながら、ユメは一度も振り返ることが出来なかった。
――悟天。
一体、何を考えているの……?