第1章 前編
そして。
とうとう、バレンタイン当日となってしまった。
「えー!? じゃぁ結局、チョコ作らなかったの!?」
「一応は作ってきたよ。でも、……渡すかどうか、わかんない」
悟天は思いっきりクマを作ってきたユメの沈んだ顔を見て難しい表情になる。
昨日ほとんど寝ていないのが丸分かりだ。
「トランクス君てばそんなこと思ってたんだぁ。僕は好きだけどなぁバレンタイン。ほら、見てよ! とりあえず朝の戦利品♪」
ニコニコ顔で開けて見せたカバンの中には、かわいくラッピングされた箱がいくつも入っていた。
「はぁ……。もらう側はいいよねぇ。私も男に生まれれば良かった……」
「何それ。……で、どうするの? トランクス君、一応来てるみたいだよ?」
そう言って天井を指差す悟天。この上には3年生の教室がある。
悟天とトランクスにはお互いの気配を感じ取れるという不思議な力があった。
「う゛~~~」
低く唸りながら机に突っ伏すユメ。
もともと自信が無かった上に、昨日の一件で更に告白するのが怖くなってしまった。
もし断られたら……そう思うと足が竦んだ。
それで結果、気まずくなってしまうくらいなら、今の「友達」のままでいいのかもしれない。
でも……。
「僕は、ユメとトランクス君にはくっついてもらいたいよ」
「うん。悟天にはいろいろ協力してもらって、ホント感謝してる。……ただ私に勇気がないだけ」
そう弱々しく微笑むユメ。
……と、それを見た悟天の表情が、急に険しくなった。
「ダメだよ、そんなんじゃ!!」
「!?」
突然の強い口調にユメは驚く。
「ずっと、好きなんでしょ? トランクス君のことが!」
「そう、だけど。……でも……」
ユメはまた俯きながら小さく答える。
「だったらその気持ち伝えなきゃ! チョコだってちゃんと作ってきたのに渡さなきゃ意味ないよ!」
「……」
まるで自分のことのように真剣な悟天。
こんな悟天は仲良くなってから一度も見たことがなかった。
でも、だからこそ、その真摯な気持ちが伝わってきて……。
「今言わなかったら……、後で絶対後悔するよ」
「!!」