第8章 それ見た事か。
が。
誰でしたっけ。アナタ。
その顔に思い当たるには記憶が曖昧で、考え込む私の眉毛同士の距離が近づく。
「改めて、僕の名はミストアーヴァイル。長いからミストで良い」
「あっ、えっと、知ってると思うけど、アリーチェです」
・・・仮名だけど。
「・・・おや。もしかして僕の事は覚えていないのかな?」
「ご、ごめんなさい」
「そうだね、あれから何日も経っているし、君はどうやらこの世界の住人では無いみたいだから当然の事だ。なに。気にしないでくれたまえ」
「と言われましても」
「前に、僕とぶつからなかったかい?」
・・・あ。
そう言えば、男装してこの城から脱走を図った時にこんな感じの人にぶつかったような・・・
確かすっげぇ名前の長い人を探していたような。
「あぁ・・・!あの時はすいませんでした!あと道教えてくれてありがとうございます」
「なに。気にするな」
「あの時探してた人は、見つかりましたか?」
「あぁ。とんだ入れ違いになったけど、なんとかね」
「でも・・・何で助けてくれたんですか?」
「それはもう少し後で判るよ。さて。目的地に着く前に、一つ寄り道をしても良いだろうか?」
「ボス、場所に変更は無いですか?」
「あぁ。打合せ通りでかまわない。そうだ。彼はフィル。見ての通り、この船の操縦係だ」
「って言っても、まだまだ見習いだけどね。アリーチェ さん、色々話は聞いてるよ。安全運転で飛ばすから、心配しないでね」
矛盾してませんかそれ。でも追手が恐いし、その線でお願いします。
ぐいと船が高度と速度を上げるのが判った。
反射的に椅子の背もたれにしがみ付き、心の中で、小さくエアフルトの国に別れを告げた。
逃げてやったぞザマー見ろ!!
・・・追手が来なければ、の話だけど・・・