第8章 それ見た事か。
「さ、こっちだよ!早く!」
大穴の先から私に向かって手を伸ばすその青年は、本当に黒マントの味方なのかと疑いたくなるような爽やか好青年だった。
明るい色の髪と、人懐っこそうな顔。
多分年上なんだろうけど、どこか幼い印象を残す。
ぐいと引き寄せられた先は、風変わりな空間だ。
色とりどりのランプがぶらさがり、木造の壁にはそこかしこに地図とメモ帳が貼られている。
大きな羅針盤に、計算機の様な物と大きな舵。
あー・・・これ飛ぶ奴だ・・・
この後予測しうる出来事に、脱出できる喜びなのか、恐い目に合わされた怒りなのか、なんだかよくわからない感情が私の中を吹き荒ぶ。
「おっと、ごめん、手ぇ、汚れちゃったかな」
好青年に言われてふと自分の掌を見てみると、黒っぽい油の様な物がついていた。
彼を見ると、彼自信の掌を広げて見せる。成程あちこち黒い。
彼はポケットから白い布を差し出し、私の掌を拭いてくれた。
「ごめんね。折角綺麗な手なのに。俺、さっきまでこの船の整備してたからさ」
「や、えと、大丈夫ス」
完全に毒気を抜かれた私。
ついでに語彙力も抜かれたっぽい。
いや今、普通に船って言ったよね!?
「さて。それじゃあ出発しようか?」
私の後ろから船内に入って来た黒マントが好青年に話しかける。
「了解!それじゃあしっかり掴まっててくださいね」
口をはさみたい事が山ほどある。
何処に連れてかれるの私?
んで、何されんの?
そもそも、結局お前ら誰なのよ?
つうか、城にあんたの仲間一人置き去りだよね!?いいんかそれ?
疑問を口にする前に、船が大きく揺れた。
やがて、船の稼働音らしき低温と、何とも言えない浮遊感が私の内臓を脅かす。
あー・・・クライブさん、今どうしてるかな。お咎め無しだといいな。
ステアもなんであんな事・・・
ルイ君は案の定反応ないし。
ダリさんとか、このまま会えないのは寂しいな。
司教と王様は・・・べつにいいや。