第8章 それ見た事か。
あと少しで壁際という所で、踵に誰かの足が当たる。
ふと振り返った瞬間、そこに居たのはステアだった。
「ステア・・・」と名前を言いかけた時、急にステアが両手を突き出し、私の身体を前方に押しやった。
その力は思ったよりも強く、まるで私にだけ突風が襲って来たかのような衝撃。
履きなれない靴と、緊張で足がもつれる。
そうして倒れかかった先は、運悪くクライブさんと黒マントの決闘場のど真ん中だった。
えぇ・・・?嘘でしょこの展開・・・
ふとステアの方を見ると、彼は既に何処かへ行ってしまったらしく、そこに姿は無かった。
嘘・・・まさかステアに裏切られた・・・?
倒れたまま呆然とする私の手を、クライブさんが取り、引き起こしてくれた。
「大丈夫か?」
だ、大丈夫なワケがない。
「俺の後ろから、離れるなよ」
そのまま私を後ろへ下げ、黒マントと対峙するクライブさん。
後ろに私が居るのに、躊躇の無い黒マントの攻撃がクライブさんを襲う。
守りながら戦うって、普通に考えてとても難易度の高い行為だと思う。
後ろの私に「こっちだ」と指示を出しながら戦うクライブさんは、黒マントの攻撃を全て正確に剣で受け止めている。
何だか唐突な黒マントとか、脱出を阻止するばかりかよりによってこんな所に突き出すステアとか。
・・・冷静に考えれば、私をここまで吹っ飛ばせる体力がステアにあるとも思えない。
・・・魔法か!
・・・わざとか!!
そうだとしても、意図がさっぱりわからない。
だけど私の心の底に、この光景について少し引っかかる事があったのは確かだ。
あれは確か・・・この世界に来て直ぐ後に・・・聞いたはず。