第8章 それ見た事か。
「待ちたまえ」
静寂を破った声と共に、突然大きな音を立て、すぐ近くのシャンデリアの一つが落下した。
厳密に言うと、シャンデリアの上に乗った何者かが、広間へ侵入してきた。
訳も判らずに硬直する私と、混乱で急に騒がしくなった広間。
そして突然の侵入者に怯む事無く剣を抜く兵士達。
黒づくめでマントで仮面をしている見るからにアヤシイ侵入者。
見事地面に着地を決めた不審人物は、持っていた短剣をさし向けてこちらへと向かって来る。
この式典に参加していた貴族たちは皆、後退るもその結末を見届けたいという風に、黒づくめから少し離れた所でおどおどしている。
そのお陰で、まるでチンピラ漫画のように輪が出来上がり、黒づくめを囲んでいる状態になった。
「その銀の乙女をこちらへ渡してもらおうか?」
髪をかき上げながら、澄ました声で黒づくめが言葉を放つ。
いや待てよ。お前誰だよ。
なんて口に出す隙は無かった。
兵に囲まれているのに落ち着きを払った様子で、黒づくめが更に近づいて来る。
周囲の兵が掛かろうとした時、クライブさんが前へ躍り出た。
「俺が・・・やる!」
言い切るが否や、クライブさんは黒づくめへ斬りかかる。
黒づくめは、短剣にも関わらず、軽くクライブさんの剣をいなして一撃を繰り出す。
その反撃もクライブさんは見事に躱し、文字通りの一騎打ち。
周囲の兵は手出しを出来ずに武器を握りしめながらその決闘(と言えばいいのだろうか)を見守っている。
下手に手を出したら、クライブさんが手負いになってしまうからか、この国のルール的な物なのか、命令されないから動けないからなのか、は判らないけど。
この混乱に乗じて私はそっと後ずさる。
司祭にも王様にもばれない様に、少しずつ。ほんの少しずつ。