第6章 脱兎さん
あまり従者の恰好も良くないと思い、スモックを脱いで投げ捨てる
途中、何人かとすれ違ったけど、そもそも私の存在すら知られていなかったので気付くような人はいない。
そうだ、ステア!彼の所に行けば何とかなるかもしれない。
方向も距離もわからないまま、私は数年ぶりの本気ダッシュ
何度も曲がり角を曲がり、庭を越え、広間を横切る。
でも、このまま闇雲に走った所でステアとばったり会えるはずがない。
誰かに聞こうにも、どう聞けばいいだろう?
どうしようかと考えながら走っていたら
通路を横切ろうとした人にぶつかってしまった
「あだっ・・・あ、す、すみません!」
反動で尻もちをついてしまう。
「なに、気にすることは無い」
気取った台詞にサラッサラの黒髪。
いかにも『やんごとないです自分!』な貴族っぽい衣装
サイドの髪を一房赤紫に染めているのがさらにキザったらしい
服についた埃をサッと払い、キザ男は私に手を差し伸べた
「少年、怪我はないかい?」
あ、そうだ。今絶賛男装中なんだっけ。
「ご、ごめんなさい。あの、僕・・・」
精一杯少年を演じる
「元気なのは良いが、ほどほどにしたまえ。そうだ、少年。僕は今人を探しているんだが、クラヴァンスティントリブザッハという人物を存じないだろうか?」
「し、知らないです」
「そうか。失礼したな。・・・折角立ち寄ったから顔でも見てやろうと思ったのだが」
ぶつぶつ口の中で呟きながら立ち去ろうとする
「あ、待ってください、わ・・僕も探している人が・・・。あの、魔法使いの方の居場所を教えてほしいんですが」
「魔法使いの住居?それならこっちの道のバラ園の向こう側だよ。君はこの国の人ではないのかい?」
「あ、え、えっと・・・ありがとうございました!」
濁して再びダッシュ。
それにしてもあの人の探してる人・・・すげぇ名前!なっが!