第6章 脱兎さん
箪笥をあける
使えそうな男物は端に寄せてたハズ
これと、これと、、、
「アリーチェ様、ちゃんとそこにおられますか?」
不安と期待が混じったような声が扉の向こうから聞こえる
「はいはい。着替えてる最中だっつうに」
「しかし・・・万が一の事があったら・・・」
「なんなら歌でも歌いながら着替える?」
冗談のつもりだったのに
「お願いします!」
と真剣な声が聞こえて来た。
適当にハミングしながら手早く着替える
ファンタジーな世界の服は、着るのも脱ぐのも一苦労
なんせボタンが多い。
男物なのにレースがついてる。
長袖なのに袖が膨らんでいる。
後で知った事だけど、皮肉な事にこの袖の名前は『ビショップ・スリーブ』って言うみたい
どうにかシャツを着替えて、黒いズボンにベストと上着を合わせ、膝丈程のブーツを履く。
髪をまとめて帽子に入れ込み、目深に被れば男の子に見えなくもない、と思う
それでもやっぱり銀の髪は目立つ。
ホント、何でこの色選んじゃったかな、私!
「準備が出来たので部屋へはいりなさい」
緊張で声が上ずる。
「し、失礼します!」
同じく緊張で上ずった声の従者が部屋の扉を開けた
「え、アリーチェ様・・・?」
私の恰好を見るなり、訝しがる
「いいから、こっちに来て」
窓から入る夕日が私の影を長く伸びている
「あなたのその服を脱いで」
「え、服を・・・ですか?」
「そう。その穢れた服を脱ぎ、清らかなその身を私に」
最後の方はもうなんて言ったらいいかわかんなくて濁した。
だってなんか悪い人みたいじゃん。服脱げとか。
それでも何とか通じたみたいでスモックのような服を一枚、床へ脱ぎ捨てる
スモックの下に来ていた薄いシャツとズボンの状態にし
、さっきまで私が着ていた服を着るように命じる。
「ど、どういう事・・・ですか」
ここまでされて、さすがに疑いが強くなって来た。
仕方がない。
ほどいておいたカーテンの紐で素早く腕をぐるぐる巻きにする
「アリーチェ様・・・!」
「ごめんね、私、まだ結婚したくない!」
従者の口にハンカチを突っ込み、さっきまで彼が着ていたスモックを被る。
トランクを掴んで部屋を飛び出した。