第5章 僕は、便利屋。③
〇〇「…うっ。ゴホッ。ケホッ。…智?私、何でここに居るの?」
〇〇が、キョトンとした顔で、聞いてくる。
「いつもの、いつもの症状が出たんだよ!…もう、俺を解放してよ?………姉さん?!」
香奈「何を、言ってるの?」
香奈は、戸惑っている。やはり、覚えていない。
「姉さん。…今は、姉さんでしょ?」
香奈「えっ?今はって、ずっと、あなたの姉…でしょ?」
俺は、涙が、ボロボロと溢れた。嗚咽で、なかなか話せない。
翔が、『さとしさん。ゆっくり、ゆっくりでいいんだよ』と、背中を擦ってくれた。
俺は、少しずつ、落ち着きを取り戻すことができた。
「姉さん。あなたは、病気、なんだ。16の時から父さんに、抱かれてる。…その、現実から逃れるために、他の人格ができたんだよ…」
香奈「…えっ?父さんと?私が?」
「そう。そして、ユウって奴が、俺とセックスしている人格なんだ…。ここに、来るときは、ユウになってる時だよ?俺との子ども、何回も堕ろしてる。信じたくないでしょ?でも、本当なんだ!!」
やっと…、言えた。胸のモヤモヤしたものが、サーッと晴れていく。
香奈は、絶句して、その場に立ち尽くす。まあ、当然だろう。
16才の頃から15年もの間、実の父親と弟と寝ていたって、それだけでもショックなのに…。その上、多重人格で、何回も堕胎していて…。
「姉さん。入院して、治そう?…もっと早く、こうすれば。こうすれば、良かったね…」
香奈は、その場に崩れ落ちる。翔が、そっと肩を支える。
「病気、治してさ。風間さんと結婚しようよ?…過去は消せないから。…俺も…俺も、うっ。グスッ。乗り越えるから…。ひっく…。姉さんも、一緒に頑張ろうよ。ね?」
俺は、涙ながらに訴えた。香奈は、翔の手を握りしめながら、頷いている。
風間さんを呼んだ。病気のことを話した。もちろん、俺と父さんとのことは、話さなかった。すぐに入院させて、一緒に治していくって、言ってくれた。
なんだ…。こんな、簡単なことだったのに…。何で、今まで…。俺は、15年も…、耐えて…。バカだな?俺……。