第5章 僕は、便利屋。③
櫻井さんを連れて、ツルさんの家に戻る。
吉「智。早かったね。…どうした?その子。とりあえず、入れ」
ツルさんに、ここまでのことを話す。
吉「翔。腹減ってないか?とりあえず、何か口に入れろ。話は、それからだ」
〈ありがとう つるさん〉
〈ありがとう さとしさん〉
ニコッと笑う、櫻井さん。か、可愛い…。
今まで、男も女も関係なく、何百人とヤッてきた。セックスなんて、挿れる穴さえあれば、よかったから…。だから、可愛い、なんて他人に思った事がない。今日の俺は、おかしい…。う~ん?
「櫻井さん。ツルさんの作った団子、食うか?旨いぞ!」
笑顔でコクりと頷く、櫻井さん。
〈僕のこと 翔でいいから〉
「そう?初対面だから、失礼かな?と思ったからさ」
〈たぶん さとしさんのほうが年上でしょ? だから 翔って呼んでください〉
また、ニコッと笑う、翔。それから、3人で団子を食べた。
「只今戻りました」
松「おう。お疲れさん。って、そいつは、何だ?大野」
松兄ぃが、俺の服の袖を持って、ちょこんと立つ人物を指差す。
「ああ、吉田の婆さんの家の近くで拾った。放って置けなくて…」
松「…。放って置けないって、珍しいこともあるな。…可愛い女の子だからか?」
「違うわ‼翔は、男だよ!」
今までのことを松兄ぃに話す。ただ、黙って頷きながら、聞いている。
松「翔。見たところ、未成年だろ?親は?その、しゅうって奴とは、どうした?はぐれたのか?」
〈僕は 16才〉
〈お母さんは お父さんの暴力に耐えられなくて 居なくなった 8年前〉
〈お母さんが居なくなったあと〉
〈お父さんが 僕たちを毎日 叩いてきた〉
〈10才のときから しゅうと 家に 閉じ込められてた〉
〈怖くて しゅうと やっと 逃げてきた〉
〈気づいたら しゅう 居なくなった どうしよう?〉
メモ帳に書かれた震えた文字たち。
親からの虐待。だから、16才だっていうのに、こんなに、小さいのか?声が出なくなったのか?
俺は、右手をギュッと握りしめた。
松兄ぃが、目に涙を浮かべながら、翔を抱きしめた。