第5章 僕は、便利屋。③
松「おい…おい!大野!」
「あ、はい!…何?」
松兄ぃが、俺のデスクに腰掛けながら、顔を覗いてくる。
松「また、ボーッとして。どうした?」
「何もない」
そう言って、スマホを操作する。
松「ま、ボーッとしてんのは、いつものことか?それより、お前に依頼。いつもの吉田の婆さん。ゴミ出しと、布団干すの頼みたいってよ」
「わかった。いってくる」
軍手とタオルを鞄に入れ、立ち上がる。
口笛を吹きながら、ニノが入ってきた。
和「おはよーございあーす。松兄ぃ」
松「てめっ!社長!と言えって、言ってんだろうが!」
いつもの二人の、朝の光景。でも、最近、ニノがやけに陽気だ。ニノも俺と一緒で、あまり感情を表に出さない。…けど、今なんて、口笛を吹いてたよ?
「なぁ、ニノ。女、できたか?」
和「女?何で?…まさか、智も、色気が出てきたとか、言わないよな?」
訳がわからない。また、松兄ぃが、ニノになんか言ったのか?
和「いや、何でもない。女じゃなくて、えーっとさ、彼氏が出来たんだよ」
「ん?…そうか。良かったな」
鞄を抱えて、部屋を出ようとする。
和「おい!彼氏だよ?智、突っ込めや‼まったく」
「ん?何で?…そいつのことを好きなんだろ?だったら、男でもカンケーないだろ?」
和「智…。ありがとう!…あ、今度紹介するよ。まーく、いや、雅紀のことを。それじゃ」
顔を赤らめながら、ニノは足早に去って行った。
やっぱ、ニノ、変わった。雅紀って奴、良い人なんだろうな。
「いってきます」
松「おお。頼んだぞ!」
俺は、会社の車に乗って、吉田の婆さんのところに向かった。