第8章 若葉のころを過ぎても
いくら考えても思い出せない。
とりあえず…
掛布団を捲ってみる。
俺も翔も服を着ている。
翔なんて、スーツのままだ。
あ~あ、スーツがシワだらけじゃん…。
何も、ないよ…な?
ちょっと期待してしまった自分が恥ずかしい…。
翔「あ、あの…ぅ…」
「ん?なに?」
翔が目覚めて、今向い合わせで朝飯を食べてる。
翔「俺と、その…ぉ、シタ…?」
「なんもしてないよ。それに、服を着てたじゃんか?」
翔「あ、そう、だよ、ね…うん…そうだよ…何聞いてんだ?俺…」
急に翔が飯をかきこんだ。
パシンッとテーブルに箸を置いた。
翔「俺、帰ります。お世話になりましたっ!このご恩は追って返しますので…」
「は?何?何でそんなに他人行儀になってんの?」
ハンガーにかけてあったシワシワのジャケットをパンパンと叩いてから羽織って、バタバタと荷物をもって帰ろうとする。
翔の腕を引っ張って俺の方を向かせた。
「そんなに急いで帰らなくてもいいだろ?俺さ…あの時から、翔のことを忘れられねえんだ…だからさ。ご恩は俺と…」
翔「ご、ごめんなさいっ!それだけは勘弁してください!」
土下座でもしかねない勢いで謝ってくる。