第8章 若葉のころを過ぎても
【O】
翔が何度呼び掛けてもぐったりしたまま目を開けてくれない。
頬をペチペチと叩いてみる。
「あっ…」
俺の手と翔の顔にさっき出したものが付いた。
すっかり忘れてたけど俺、手そのままだったな…。
浴室に行って、手を洗ってから、備え付けのタオルをお湯で濡らして絞った。
翔の顔に付いたものをタオルで丁寧に拭いた。
ほんの少し、穏やかな顔になった気がした。
胸を撫で下ろした。
額に手を当ててみる。
アチいな…。
仕方ねえ。帰るか。
濡れタオルを浴室に干して、部屋に置いてあったメモ紙にお礼とお詫びを書いた。
「翔。帰るぞ。歩けるか?」
反応がない。
仕方ねえな。おぶって帰るか…。
翔の身体を爪先からスーッと見回した。
さっきの翔…。
可愛かったな…。
再度顔を見ると、口が半開きで頬がピンク色に染まっている。
「ゴクッ…」
喉が鳴った。
周りに誰も居ないことはわかっているけど、念のため確認する。
ぷっくりと紅い唇にそっとキスをした。
口内も味わいたかったが、止まらなくなるから我慢しろよ!って、心の中で自分に言い聞かせた。
翔を背負って、部屋を出た。
見たことのある横顔だな…?
あっ…⁉
「相葉?」
振り向いたその顔は驚きで溢れていた。