第8章 若葉のころを過ぎても
【S】
今日俺は、大野くんとホテルのケーキバイキングに来ている。
甘い物は、苦手な方だ。
それなのに、来ているのは…。
子供の頃、犬を飼いたいと言ったことがある。
父さんが知り合いから柴犬を貰ってきてくれた。
俺は、飼いはじめの頃はかいがいしく世話をやいていた。
次第に、塾や友達と遊ぶことの方を優先して、その子のことを母さんに任せっきりになった。
父さんに、初めて殴られた。
それからは、その子の世話を亡くなるまで自分一人でやった。
あれからかな?
幼なじみの雅紀からは、よく「翔は何でもかんでも抱え込みすぎ!」と言われる。
そんなこと無いのにな…。
今日のことも…。
雅紀は、何故か大野くんと居ることを嫌がる。
今まで、俺が誰とどこに行こうが、嫌がるなんて無かった。
大野くんにだけ、態度が一変する。
甘いものが好きな雅紀を誘おうか、迷ったけど…、何も言わずに来た。