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君と共に

第14章 終わりに近づくその日まで


俺の携帯がコールする。
出てほしい気持ちとそうでない想いがせめぎ合い、心のなかで乱流を作っている。
その流れを落ち着かせたのは恋人の一言だった。
「もしもし、和樹?」
「約束の電話、今大丈夫かな?」
「もちろん!」
電話越しでも分かる喜びに、独りでに笑みがこぼれた。

とりとめもない会話には恋の隠し味が入ってる。
誰にも邪魔されることない二人の時間に舌鼓できるのは幸せという言葉以外では言い表せない。
何分話したか分からないと感じたときに、会話が途切れた。
そして、楓が俺に問いかけた。

「和樹、私に何か聞きたいことあるでしょ。」

通話中の沈黙はこうも心を不安にさせる。
そして、楓にはお見通しであることはもはや明白だった。
「実は楓の言葉に引っ掛かっていることがあって、理由を聞きたいんだ。ずっと一緒って何で言ったのか。」
楓は黙らなかった。
先ほどの楽しい会話と同じテンポで話し続ける。
「和樹って、真穂が時々学校を休んでるの知ってるよね?」
「え、うん。それはしってるけど…。」
この話に何故鈴木が関係するのか、と思ったまま楓が続ける。
「実はあの子、肝臓に病気があって定期的に治療を受けないと元気に生きれないんだ。しかも、有効な治療方法も未だに発見されてないほど珍しく難しい病気らしくてね。唯一の方法は移植なんだって。」
いつも元気な鈴木がそんなことを隠していたのは、さすがに驚いた。それでも、この話と楓の関係がよく分からない。
「それと楓がどう関係あるの?」
「適合したんだ、私と真穂。」
その瞬間、全てを理解した。
楓の死と引き換えに鈴木が健やかに生きられるということ。
「その手術が成功すれば、真穂は普通の人と一緒に過ごせる。恋愛だって出来ちゃう。」
「で、でも!今の医療なら肝臓移植したくらいで提供する人が死ぬことなんて、確率低いだろ?それに、再生するって聞いたことあるし、楓が死ぬことなんてないよ!」
振り絞った知識で必死の言い訳にすがりつく。
せっかく会えた恋人を、失いたくない気持ちが前面に声となる。
「普通の人なら、ね。」
再び沈黙の時間が続く。
そして、楓から今日最後の言葉。
「明日、学校で真穂とこのことをクラスの前で話すことになってる。そこで真穂のことを知ると思う。だから、明日学校で会おうね。バイバイ。」

涙が零れながら、携帯を置いた。
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