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すうら、すうすう。

第7章 聖夜のシリング硬貨ーシャーロック・ホームズー



マクドナルド夫妻の墓前を覆う雪を細く長い掌で掻き分けて、ホームズは真顔で続ける。

「いつかもしかして…いや、その気さえあれば間違いなくそうなるかとは思うが、あの子供たちがロンドンで一旗上げたとき、ロンドナーは自分たちの育った村の者より間抜けで垢抜けないと思い込んでいるようであれば、それは明らかに我々の責任になるからね。善良さでは一も二もなく譲るとしても、都会者の沽券にかけて最低限の見栄は張りたいものだよ」

雪の冷たさに赤く染まったホームズの指先に昨晩並べた二枚の硬貨が現れた。銀色のシリング硬貨は、まだ昼過ぎだというのに早くも夕暮れさえ思わせる短い冬の日差しを弾き、鈍い光りを穏やかに放つ。

ホームズはレストレード警部と目を合わせてから、私を振り向いた。二枚の硬貨を掌にさらい上げて立ち上がり、黙って成り行きを見守っていた私に恭しく細やかなお宝を差し出す。

「これを革袋に足してくれないか、ワトソンくん。それで今年の僕とレストレードくんの務めは終わりだ。そして君も当面シリング硬貨に悩まされる事はなくなる」

ホームズとレストレード警部の務めとは何か、消えた二枚のシリング硬貨が何処へ行ったのか、堅物の警部が何故親心などを語ったのか、どうしてゴーストの存在を問うた私をホームズがここに連れて来たのか。

姉弟の元へ、シリング硬貨を贈る聖ニコラオスの正体は…いや、これは定かではない。ただ推測が、捉えどころのない、けれど間違いないと思える推測があるだけだ。

夫妻と姉弟への好意と職業上の責任感、不可思議な事象への尽きる事ない好奇心と探究心、そして畏敬と憧憬。
似たようで似ない二人の男が、同じ気持ちになる一年に一度の日。

私はホームズとレストレード警部をしっかりと見据え、出来得る限り丁重にシリング硬貨を受け取った。

二百七十九枚の遺産に十八枚の善意、消えた二枚の遺産、好意と責任感に依る二枚の補填。

一年に一度、奇跡の朝に、両親は幼い子らに褒美を与えるのだ。

よくやった。また来年、頑張るのだよ。

抱き締めてやる事も出来ない自分たちの精一杯の気持ちを込めて、幼い姉弟を褒めてやるのだ。

お前たちを自慢に思うよ。健やかに育ってくれて、ありがとう。

冷たいシリング硬貨を革袋に収め、私は隠しから引っ張り出したハンケチで鼻をかんだ。
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