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すうら、すうすう。

第7章 聖夜のシリング硬貨ーシャーロック・ホームズー



いやはや、実に寒くて敵わない。目を瞬かせて隠しにハンケチを仕舞いながら、私はズッと鼻を鳴らした。
全く今日という日はクリスマスらしいクリスマスだ。癪ではあるけれど、ホームズの約束した素晴らしいクリスマスは、想像以上にいいものだった。
おまけに彼は実に彼らしいやり方で、茫漠とした出来事に明らかな証と思うに足る実証を添えて私の疑問にも答えて見せた。

ゴーストはいる。
少なくともこの村には、クリスマスのゴーストがいる。

私はそう信じる。









帰りの馬車に乗り込むとき、アイリーンとカーディがピーターソン牧師と共に見送りに来てくれた。
行きは二人だった馬車の道行きだが、帰りはレストレード警部と同道する事になった。厳しいレストレード警部は矢張り居辛い相手だが、今度の件で彼への私の評価は些か変わった。
出発の直前、カーディと一人前の男とするような力強い握手をした彼へ、思いがけずもアイリーンが、ホームズと私の頬にしたのと同様の挨拶のキスをした。これが初めての事だったらしいが、この別れの様を見たからには固い一方だった彼への評価だって変わらざるを得ない。
何しろその後の警部と来たらば、馬車を降りて汽車に乗り込むまで、あの青白い顔を真っ赤にして汗を掻き通しだったのだから。

「偉くレストレードくんを怖がっていたものがお別れのキスとは、また今年は随分頑張ったものだよ」

帰途の汽車の中、盛んにハンケチで汗を拭うレストレード警部を横目に、ホームズはのんびりパイプを燻らせて愉快そうに言った。

「これぞ正にクリスマスの奇跡だ。そうは思わないか、ワトソンくん?」

















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