第7章 聖夜のシリング硬貨ーシャーロック・ホームズー
教会での礼拝で顔を合わせた村人たちは、新参者の私にも皮肉屋で変わり者のホームズにも、愛想無しで気難しいレストレード警部にも、等しく人懐こく礼儀正しく、終始気持ち良く接してくれた。彼らに交じって立ち働くマクドナルド姉弟は、見るだに満ち足りて見える。
「彼らに関してはこの村に居る限り心配はないと思っている。これは間違いない見立てだろうね」
聖餐の席についたホームズが私に耳打ちした。
陽気な若者が柑橘の風味が堪らない温かなモールドワインを注いでくれる。芳しい香りが立つ中で、テーブルにクリスマスの御馳走が並べられて行く。
焼き馬鈴薯と茹で人参、濃く煮詰まってとろりとしたグレイビーソースの添えられた七面鳥の丸焼き。玉葱、パセリ、セージを捏ねたスタッフィンもある。小さな器に野菜のスープ、甘いスパイスがつんと香るフィリングたっぷりのミンスパイ、前菜のカリッと焼けたメルバトーストが一緒に饗されるのもご愛嬌で、黒砂糖も干した果物も惜しげなく使われたクリスマスプディングは、実に見事なものだ。
村のおかみさんたちの腕前は差し入れて貰った夜食で十分承知していたが、この聖餐には呻らずにいられなかった。これは日々倹しく暮らす信心深い彼らの、ありったけの心を込めた大変な御馳走なのだろう。
素晴らしい聖餐のお陰で、私のクリスマスへの憤りはかなりのところ宥められた。実際、素晴らしいクリスマスだ。
朝靴下から現れたシリング硬貨を各々大事そうに隠しに収めたマクドナルド姉弟が、村人たちと楽しげに話しながら御馳走を頬張る姿を見るだけでもこのクリスマスが素晴らしく価値のあるものであると思える。
ここには子供用のテーブルなど支度されてはいない。隔てなくテーブルについて老若男女拘りない様は得難い景色だ。
「今年のクリスマスはどんなものだい、ワトソンくん」
ホームズが面白そうに私を見て、人の悪い表情を浮かべた。私の虫の居所が悪かったのをホームズは承知していたようだ。そして今、私は現金な程分かり易く機嫌の良い様子をしているのだろう。決まり悪いがクリスマスにご機嫌でいるのは決して悪い事ではない。
「とても意義深いクリスマスを迎えられたと思うよ」
真っ白なナプキンで口元を拭って、私は苦笑いで答えた。これは自分に向けた笑いだ。全く我ながらいささか単純過ぎないかと思うが、正直なのも勿論悪い事ではない。