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すうら、すうすう。

第7章 聖夜のシリング硬貨ーシャーロック・ホームズー


ホームズの有無を言わせぬ笑顔に、レストレード警部は何か言おうと開けかけた口をぐいと閉じ、諦めたように暖炉に歩み寄った。テーブル脇に身を寄せ合って立つ姉弟にぎこちなく頷いて、靴下を慎重に取り外す。
皆が見守る前で逆さに振られた二つの靴下から、一枚ずつシリング硬貨が転げ出た。

まさか。一晩見張っていたが、誰もここに来てはいない。これはハッキリしている。昨晩、靴下が空だったのも他ならぬ私自身が確認した。

この二枚のシリング硬貨はどうした事だ。一体何処から来たんだ?それに一晩親鳥が卵を抱くように守っていた革袋から煙のように消えたシリング硬貨は一体何処に行ったんだ?

私が驚きも露わにもの問いたげな目を向けると、ホームズは重々しく頭を振った。
驚いているのは私だけで、マクドナルド姉弟は邪気のない喜びに手を握り締め、レストレード警部は顔色こそ青いが落ち着いた様子で、ピーターソン牧師に至っては姉弟に劣らぬ喜ばし気な顔に敬虔な表情を浮かべて夢でもみているように見えた。
そして我らがホームズは、興味深そうにシリング硬貨を眺めて、物思いに耽っている。

昨日ホームズが私に革袋を押し付け、仰々しく靴下の中身を確認する様を見せた意味がここに来てわかった。ホームズ自身、より多くの確証を得る為に何も知らない私を革袋と靴下の、いや、不可思議に増減するシリング硬貨の番人にしたのだ。

「ホームズ。これは一体どういう事だ?」

堪らず口に出したらば、ホームズはにっこりした。アイリーンとカーディに慎重な手付きで出自の知れないシリンダ硬貨を渡し、これは君たちへのクリスマスの贈り物だと恭しく告げた。

「ホームズ」

焦れて再び声をかけた私に、ホームズは悪戯っぽい表情で首を振って見せる。

「落ち着いてくれ給えよ、ワトソンくん。どういう事って、これこそ紛う事無き完璧なクリスマスの贈り物だろう?君も知っての通り、昨夜は私達を別にして誰もアイリーンとカーディを訪ねていないんだ。ならばこれが聖ニコラウスの仕業でなくて一体誰の仕業だというんだい?」

まさかそんな。
私は忙しなく目を瞬かせて奇妙な祝日に居並んだ顔触れを見回した。それぞれがそれぞれに考え深く、また不思議に落ち着いた様子でいる。きょときょとと落ち着かないのは私だけだ。
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