第7章 聖夜のシリング硬貨ーシャーロック・ホームズー
「失礼を承知で言わせて頂きますがね。私としてはクリスマスの朝からあなたの御託など聞く気になれんのですよ」
テーブルのバスケットを持ち上げ、レストレード警部は踵を返した。
「こんなところで長話は無用です。私はそろそろ朝飯にしたいんですよ。朝飯の時間が狂うと調子が出ない。早く用を済ませてしまいましょう」
マクドナルド姉弟は、我々の訪いを予想していたようだ。
しかしにこやかに迎え入れてくれた罪のない幼顔がレストレード警部を見止めてキュッと縮こまるのを見て、私は何とも言えない心地になった。鹿爪らしいレストレード警部の佇まいは確かに威圧的だし、彼自身マクドナルド姉弟にどう接するべきか自らに課すところがあるのを知った今、気の毒やら可笑しいやら感心するやらで、咳払いが出てしまう。
私たちに細やかな朝食を饗しようと立ち働く姉弟の、輝くように健やかな様は全く見ていて気持ちいいものだった。貧しくはあるが、不遇ではない。改めて私は、この村と姉弟、そしてピーターソン牧師に好感を感じた。細やかで、そしてだからこそ恵まれた人々だ。
「朝食前にひと仕事だ」
暖炉にかけた鍋から薄いポリッジを盛り分けようとしたアイリーンを止めて、ホームズが昨晩炉端に吊り下げた靴下に歩み寄った。
「レストレードくん?」
ホームズに呼ばれて警部が訝しげな顔をした。ホームズは暖炉の前を空けて、靴下を目で示した。
「靴下の中を確かめてくれないか?」
「子供への贈り物を先取りするような真似はしたくありませんな」
敢えて姉弟と目を合わせぬようそっぽを向いたレストレード警部が非難がましく言い放ったが、ホームズは頓着なく彼の手からバスケットを取り上げた。
「成る程、それは全く紳士らしい真っ当な言い分だ、レストレードくん。これが常なら僕としても是非もなく同感だがね。しかし何も彼らへの贈り物を横取りしようというんじゃない。これは毎年の事なんだよ。僕かピーターソン牧師が靴下の中身を確かめる。それを今日は君にして貰いたいんだが」
マクドナルド姉弟が大きな目を見張ってレストレード警部をじっと凝視している。
これは傍から見ても決まりが悪い。警部に助け舟を出そうと口を開きかけた私をホームズが手を上げて遮った。
「ハッピークリスマス、レストレードくん」