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すうら、すうすう。

第7章 聖夜のシリング硬貨ーシャーロック・ホームズー


そう言ったきり黙り込んだホームズを横目に、私はまたもシリング硬貨を数えた。 

二百八十一。この数の意味するところは何なのだろう。
物思いに耽りながら硬貨を数えていた私は、ふと顔をしかめた。
おかしい。数え終えた硬貨の山と、残り数枚の硬貨を見比べて、私は冷や汗をかいた。

どう見ても足りない。

数え終えてはっきりした。
二百七十九。
硬貨が二枚減っている。

慌てて数え直し始めた私に、ホームズが穏やかな顔を向けた。

「数が合わないようだね」

「おかしいな…」

三度、硬貨を数えだした私をホームズはじっと見詰めている。

「いや、それでいいんだ、ワトソンくん。ほら、硬貨を仕舞い給え。お客がお見えになったようだ」

墓守の小屋の薄い扉がノックされて、ピーターソン牧師が顔を出した。

「おはようございます。ハッピークリスマス、ホームズさん、ワトソンさん」

片手に昨夜見た村人たちから姉妹への贈り物の小袋を持ち、にっこりとクリスマスの挨拶をするピーターソン牧師を見て私は呆気にとられた。
いや、実際にはピーターソン牧師の背後にうっそりと堅苦しい様子で佇む見覚えある人物に心から驚いた。

「レストレード警部?また一体何だってあなたがこんなところに…」

「それは私の台詞ですよ、ワトソンさん。この片田舎でクリスマスを迎えるとは、あなたも随分な物好きですな」

同じくクリスマスの朝をここで迎えた自分を棚に上げ、帽子の庇に積もった雪を払って泥落としで足踏みするスコットランドヤードの敏腕警部を見、私は得心した。
昨晩ホームズが教会の泥落としから看破した間抜けな都会者は、この顔馴染みの警察官だった訳だ。

それにしても何故、寄りによってクリスマスに彼がここに現れたのだろう。

「やあ、今年は上手い事顔を合わせられたね、レストレードくん」

ホームズは満面に笑みを浮かべ、両の腕を広げて二人を歓迎した。

「彼こそが謎の先客だよ、ワトソンくん。物騒な案件がある訳でもなく、しかもクリスマスにこの顔触れが集まるなんて、随分奇妙だとは思わないか?」

「素晴らしい事と思いますよ、ホームズさん。今まですれ違い続けていたものが、ワトソン先生がお見えになった今日という日にこれですからな。正に神の恵み、クリスマスらしい僥倖です」

手作りの小袋を私に差し出して、ピーターソン牧師が微笑む。
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