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すうら、すうすう。

第7章 聖夜のシリング硬貨ーシャーロック・ホームズー


私たちの訪いに教会のドアを開けたのは、厳つい鷲鼻に穏やかな灰青色の目の、がっしりした人物だった。

「これはこれはホームズさん、ようこそいらっしゃいました」

お世辞にもクリスマスに歓迎されるべくもない来訪者であろう私たちを見ても、彼は嫌な顔ひとつしなかった。どうやら顔見知りらしいホームズと握手を交わし、私へも気さくに大きな手を差し出す。

「ピーターソンと申します。わざわざクリスマスに訪れて下さって、大変嬉しく思います」

聖職者というには随分と逞しい彼の握手は力強く、ホームズと私を見較べて穏やかに歓迎の意を表してくれた。

「今年は噂のワトソン博士とご一緒ですか。良いお仲間が出来て何よりです、ホームズさん」

「おや、ワトソンくんをご存知ですか」

人の悪い顔で愉しげに訊ねたホームズとは裏腹に、私は驚いてピーターソン牧師をまじまじと見た。
もしや以前に何かしらの面識があって、私がうっかりとそれを忘れてしまっているのではないかと思ったのだ。大勢の患者と接する医者に有りがちな失態だ。
しかしピーターソン牧師は首を振って私の疑いを否定した。

「不躾な事を言って驚かせてしまいましたね。失礼致しました。しかしこの田舎にも私のように本を好む変わり者があるものです。ホームズさんが口髭を蓄えた医師然とした紳士と連れ立っておれば、それがワトソン博士と気付く者は少なくないでしょうね」

ピーターソン牧師は感じの良い笑い皺を目尻に刻んで、私たちを教会に招じ入れた。

「うちの教区は貧しくはあるが善良で向学心のある人々に支えられています。私は彼らとこの教会に奉仕出来る事に、誇りと歓び、そして深い感謝を覚えずにいられません」

「あなたがこの村で努めを果されているのはあなたが思う以上に尊い事です。いや、謙遜はお止めなさい。実際マクドナルド夫妻はあなたなしでは死に切れなかったと思いますよ」

ホームズの言葉にピーターソン牧師は顔を曇らせた。

「不敬な事と思われるかも知れませんが、私に神に祈る以外の実際的な力があれば、あの善良な若夫婦を救う手立てがあったのではないかと未だに思わずにいられません。私は無力な男です」
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