第7章 聖夜のシリング硬貨ーシャーロック・ホームズー
「まさか。僕を見くびって貰っちゃ困るよ、ワトソンくん。連中は既に然るべき手順を踏んであの世行きになっている。余罪が多い上に警察の威権にも関わる事件だったからね。スコットランドヤードにもお出まし願って、徹底的に追い詰めた挙句完膚なきまで一網打尽にしてやったとも。あの時のレストレードくんの大活躍と来たら、全く大した見物だったよ。あの場に君が居なかったのが残念でならないね。彼がいつもあの調子でいてくれれば、僕の隠居も早まるというものなんだが」
スコットランドヤードのレストレード警部の厳しく陰気な顔を思い出して、私は内心首を捻った。常にホームズの後塵を行く彼の事、活躍の次第は想像に難くない。
「彼はあれで意外に人間味のある男だよ」
教会のドアノックを鳴らして、ホームズが口角を上げた。
私は雪を払う手を止めてホームズを見た。
はて、どういう意味だ?
ホームズは襟元を正し、今一度肩口を払ってから私を見返した。
必要以上に生真面目な、しかしうっかりすると笑い出しかねないような妙な顔で咳払いし、私のぶら下げた革袋からも雪を払って、ロンドン一と謳われる犯罪研究家はフフッと息を洩らした。
「さて、兎にも角にも今夜はイブだ。たまには時節に合わせて教会に顔を出すような敬虔な真似をするのも悪くないだろう。神に祈って、それからひと仕事と行こうよ。ハッピークリスマス、ワトソンくん」