第7章 聖夜のシリング硬貨ーシャーロック・ホームズー
村に着いた段階で、早ゴーストの存在についての疑問を半ば忘れかけていた事を恥ずかしながら先ずここに明記しておこう。
つまりだ。
どんどん味気なくなって行くクリスマスにすっかり気を取られていた私は、ゴーストの存在の有無に関してさほど興味を持てなくなっていたのだ。いないという明確な意見も、いるのだろうかという好奇心も双方薄れて、この件に関してほぼ無垢な心理状況になっていたと言っていい。
ここで私が明確なゴーストを見止めた訳ではない事も追記しておく。
これは飽くまで記録であり、ホームズの活躍を知らしめる為のものなのだからー今回の出来事が活躍と言えるかどうかはあやしいところだがー読者諸賢が疑問を覚えるような事であっても、事実をそのまま記すべきだと心得ている。
その上で敢えて言うならば、私はゴーストを信ずる。
細やかで、しかし確かな経験に基づいて、そう言わざるを得ない。
教会に程近い、古びた小さな小屋のような家で引き合わされたアイリーン•マクドナルドとカーディの姉弟は、十二歳と九歳のまだ幼い子供だった。
二人はホームズの言った通り、僕らの不意の来訪に驚くでもなく、むしろ喜んで慎ましい住まいに招き入れてくれた。
アイリーンは栗色の髪が豊かな賢しげで美しい少女で、弟のカーディも姉と同じ色の髪をきちんと梳り、矢張り賢しげで整った顔をしている。幼い手は仕事に荒れ、貧しい服を纏った体も貧相に痩せてはいたが、二人ともどことなく品がある。正に雛には稀な姉弟と見えた。
粗末な家の細々と燃える暖炉で沸かしたお湯で、彼らは温かいお茶を淹れてくれた。お茶受けは勿論、受け皿も砂糖も添えられてはいなかったが、彼らの精一杯のもてなしを、体の冷え切った私たちは大変有り難くご馳走になった。
見れば室内も貧しいなりにきちんと始末され、毎日の丁寧な掃除の跡がある。きっとしっかりした親に育てられているのだろうと思ったところ、ホームズが微笑を浮かべて首を振った。
「この二人は孤児でね。村の人たちに助けられながら二人きりで暮らしている」
私たちに二つきりの椅子を譲り暖炉の側に立ちっぱなしでいたふたりを見ると、果たしてはにかんだ笑みを浮かべてこちらを見返している。富裕な家庭の恵まれた子供同様と言っていいおっとりとした様子は、明らかにこの家にそぐわない育ちの良さを感じさせた。