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すうら、すうすう。

第7章 聖夜のシリング硬貨ーシャーロック・ホームズー


ホームズが突飛な事を言い出したりし出したりするのはいつもの事だし、心ならずも私はそれに慣れている。しかし硬貨を数える為にここ迄出向いたという話には流石に納得しかねた。
そんな私の様子に、ホームズは神経質な眉を片方器用に持ち上げて、鹿爪らしい顔をした。

「無理にとは言わないよ。けれど、君のように好奇心旺盛で良識的な男を納得させるのは難しい事だからね。どうしても念を入れたくなるのさ」

ここで問い詰めたところで種明かしなどするホームズではない事を知っている私は、黙って袋の口を開けた。これがゴーストの存在の証にどう関わるのか正直まるでわからないが、私の軽口を皮切りにここ迄来た以上、とことん付き合うのが筋というものだ。

ガタつく馬車に往生しながら、確認を含めて二度数えた。
1シリング硬貨が二百八十一枚。
ホームズ自身も丹念に数え直して、矢張り二百八十一枚。

ホームズは満足げに頷いて袋の口を絞った。

「さて、ではワトソンくん。これを明日の朝まで預かってくれないか」

「どうしてもというなら預かるけれど、それにしても一体これは何なんだい。君の頼みとは言え、得体の知れない金を預かるのは良い気分じゃないな」

思わず顔をしかめた私に、ホームズは生真面目に言った。

「出処の知れない怪しいものじゃない事は僕が保証する。これはある不幸な正直者の夫婦が、今際の際に僕に預けた細やかな遺産だ。使い途もしっかり決まっている大切なものだから、ワトソンくん、くれぐれも明日の朝までそいつに気を付けてくれたまえよ」

仕方がない。
私はずっしり重い1シリング硬貨二百八十一枚を手持ちの擦り切れたバックの隙間に押し込もうとして、ホームズに止められた。

「それじゃ駄目だ。肌身離さず、卵を温める雌鳥のようにそいつから目を離して貰いたくないんだよ」

「おいおい、まさかこれをポケットに入れろとでも言うんじゃないだろうね」

「これは大変重要な事なんだ。是非君の目につくところでそのお宝を管理してくれなければ困る」

冗談じゃない。こんな重いものを身に着けて歩くなんて、幾ら私が野暮な医者だからってひど過ぎる。

抗議の声をあげようとした正にそのとき、馬の低い嘶きと共に馬車がガタンと乱暴に止まった。
ホームズがパイプの灰を始末して、嬉しそうに揉み手する。
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