第7章 聖夜のシリング硬貨ーシャーロック・ホームズー
「ワトソンくん。君が多少なりとも不可思議な事に興味があるというのなら、どうだい、今度のクリスマスは僕に付き合わないか?いや、是非になんて無理は言わない。君も予定があるだろうからね。けれどもし良ければ…」
「予定などないよ。君も知ってるだろう」
仏頂面で応えた私に、ホームズは膝を叩いてにっこりした。
「それは好都合だ。なら今年のクリスマスは小旅行と行こう。ハドソン夫人にクリスマス休暇をあげられるし、ロンドンに巣食う悪人たちには心ならずも安寧という思い掛けない贈り物をする事になるが、何、構いやしない。馬車馬みたいに働き詰めの君や僕だって、クリスマスくらい人並みに骨休めしても罰は当たらないだろう?」
「付き合うのは一向に構わないが、何処へ行こうと言うんだい」
莫迦に熱心な様子に絆されて問い返すと、ホームズは愛器に目を戻して首を振った。
「それは行ってのお愉しみだ。まあ待っていたまえ。君もきっと気に入ると思うよ」