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すうら、すうすう。

第5章 疫神ーゴールデンカムイ


賢吉は我ながら可笑しくなって、人の好い顔で笑いながら盆の窪を武骨な手で擦った。

「野暮だごど言うな、源次郎。オイとフミは夫婦になったばりだぞ?」

「・・・む・・・」

源次郎の耳が少し赤くなった。賢吉は胡瓜を一本初な友に投げてやってから、籠を背負い上げた。

「ちょうどフミどご迎えさ行ぐど思っでだんだ。行くべ」

「んだか」

胡瓜をバキリとかじって源次郎が頷く。

「そいなばいがった。フミも安心すっぺ」

フミは勘がいい。

籠を背負い直す態で地蔵堂の方を振り返る。

赤剥けがゆらゆら揺れていた。

「・・・ん。行ぐべ」

眉根を寄せ、源次郎の背中を軽く押して、賢吉は歩き出した。

















「畑コ売る?・・・なして・・・。何した、賢吉さん?」

秋が深まり、畑の収穫も詰めが見え始めた頃、不意に賢吉に言い渡されてフミは目を見張った。

畑は二人が食べていくのに困らない程度のささやかなものだが、いずれ子供が出来たときにはあそこを基盤に反を増し、収穫の嵩を上げる心積もりでいた二人だ。

「もうすぐオイが山さ入る時期だべ。切りコいいがら、あそごは売って春がらもっとエさ(家に)近ぇ畑コ買うがど思ってな」

囲炉裏を掻き立てながら、賢吉は穏やかに告げた。

「山の働き次第ではおっきな金コも入るべし、オメが楽に土おこしに行げればオイも安心だがらよ」

「・・・何かあっだんだが?」

スッと切り上がった目をすがめて、フミが賢吉の顔を覗き込む。

「盆の辺りがら何かおがしよ、賢吉さん」

「ん、その辺りがら考えでだんだ。今年は暑さもひでがったし、谷垣のオガもあべ(具合)悪がったべ?オメまでそった事になるごったば、オイな源次郎さ向ける顔もねえべ」

「・・・だがらって・・・」

言い淀んだフミがキッと座り直した。

「納得いがね。オガがあべ悪ぐなんだば夏はいっつもの事だねが。アダシはそんたになった事なねもの。賢吉さんも知ってるべ?アダシは夏生まれだはんで、あづ(暑い)のなば、なってもねの」

全く勘のいい、しっかり者の女房だ。
おっとり苦笑いして賢吉はフミの綺麗な目を見返す。

だからこそ、大事にして過ぎるという事はない。

赤剥けはもう畑の側に来ていた。どんどん近付いて来ている。もうフミをあの畑にやる事は出来ない。

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