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すうら、すうすう。

第5章 疫神ーゴールデンカムイ



当分畑には独りで来た方が良さそうだ。











次に見たとき、それは、地蔵堂を越えた村の中にいた。

送り火を焚いた翌日、盆の明け。

フミを置いて来て正解だった。一緒に帰ると言うのを強いて谷垣の実家に置いて来たのだ。暑さと盆の忙しさに少し参っているオガ(母)を助けて後片付けするように言い渡し、独りで山の家に帰った。

持たされたミズと厚揚げの煮付けに握り飯で晩をすませ、久方ぶりの独り寝をかこつ頭にあの赤剥けの姿が浮かんだ。
あの日、暑さに中って見えた幻なら何という事はない。だが万一まだあれがいるようなら、何としてもフミを近付けたくなかった。

賢吉はマタギだ。

山に分け入り日にちを過ごせば、怪しげな事などザラザラと珍しくもない。それが何であろうと遣り過ごさねば山を下りる事は叶わないのだから、マタギは怪異を疎かに扱わない。信じようが信じまいが。

「・・・なんたる禍々しごど・・・」

そのマタギたる賢吉の口から今、思わず洩れたひと言。

馬鈴薯や豆の蔓に絡まるように生える雑草を刈る手が止まる。手元の鎌がいやにギラギラ光って見えた。

息を吐いて額の汗を拭う。
蝉の声が止まない山の木立から、ヒラヒラとさ迷い飛んできた烏揚羽が畑の端の山椒にまといつく。
賢吉は、フッと笑って腰を伸ばした。
今日はこれくらいにしてフミを迎えに行くか。

「賢吉」

鎌を片付け、収穫した胡瓜や茄子を籠に詰めているところで声をかけられた。

ギクリと顔を上げると、源次郎がいた。

「ひとりで畑仕事が。オメはまんつ、かで(かたい)男だな」

腰籠に入った虫瘤のマタタビを見せて、一つ下のマタギ仲間、義理の兄が、愛想のない険しく端整な顔にチラリと笑みを浮かべる。

「オガさマタタビ酒にして呑ますど。オド(父)がら言われでとって来た。ぺっこ分げでやる」

「えでば。オガさとっとけ。オイなばなってもねがら」

手を振って笑う賢吉に、源次郎は真顔になった。

「フミがオメの様子がおがしどって気にしでだぞ。何かあっだが?」

「なってもね。・・・ん、いや、ぺっこ暑さにやられでっかな?だども、なってもね」

「オメが暑気中りだっでが」

源次郎が妙な顔をする。
賢吉も源次郎も互いにマタギと農作業を兼業する屈強な男だ。暑気中りなどとは程遠い。
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