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すうら、すうすう。

第5章 疫神ーゴールデンカムイ


初めて見かけたときは、村の外に立っていた。

・・・なんだべか、アレは・・・?

思わず弁当を使う手を止めた。

村外れにある畑での農作業の傍ら、賢吉は妻のフミと並んで腰掛けてひと休みしていた。

ジャワジャワと忙しなく鳴き続ける蝉の声の中、汗は止めどなく着物をしとどと濡らし、カンカンと照る日射しは乾いた道に照り返して痛く目を刺す。

「やっぱりこの時間に草取りは無理だったべか」

一点を見詰めて眉根を寄せる賢吉に、フミが気遣わしげな目を向ける。

山の上に家を構える二人は、ここのところ揃って忙しくなかなか畑に下りてくる暇がなかった。
盆に備える小用が立て込み、マメに片付けたお陰で明日の迎え火は滞りなく焚けそうだが畑仕事はすっかり疎かになり、足の早い雑草が二人のささやかな畑に繁茂してしまっていた。

流石に少し手を入れておかねば、明日からまた忙しい盆に入る事を思うと後がきつい。

「朝出ればいがったんだけど・・・」

珍しく揃って寝過ごしてしまった。フミが恥ずかしそうに口ごもる。

「疲れてだがらな。たまにはいんだ」

笑って答えたものの、賢吉の目は村の外、小さな地蔵堂の傍らに佇むモノから離れない。

細く小さな人型。この暑いのに簑を背負った背中を丸め、こちらを見ているように思える。
どうした事かその姿態は、全身がズル剥けたように赤かった。

見るだに尋常でない。

フミは気付いていない。自分にしか見えないのか。

賢吉は麦飯に沢庵というささやかな弁当にお茶をかけ、ザラザラと掻き込んだ。

「フミも早いとこ食べてしまえ。のぼせる前に帰るべ」

「だども・・・」

「明日からまた忙しぐなんだがら、今日無理すっことねんだ」

賢吉は団栗眼を瞬かせて悪戯っぽく笑った。

「のぼせてオイに背負って欲しんだか?オイなば、なってもかまわねぞ。何なら、もうおぶってやる。ホレ」

「賢吉さんてば」

困ったようなはにかんだ笑みを、切れ上がった涼しい目元に浮かべたフミは本当に綺麗だ。賢吉の友でマタギ仲間の源次郎はフミの兄だが、やはり目が人を惹く。よく似た兄妹だと思う。

急いで箸を使うフミにお茶を注いでやりながら、賢吉は地蔵堂の方へ目をすがめた。
赤い塊が微動だにせず、相変わらずそこにいる。

賢吉は居心地悪く盆の窪を掻いて顔をしかめた。
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