第4章 差し上げますー銀魂、万屋
「玄関に置いてありましたよ?ほら、これ」
新八の差し出した文庫本を銀時は無表情に眺めた。
同じ作者、同じ題名。
「・・・捨てろ」
「はい?」
「要らねえよ、そんなモン。投げろ、窓から」
「だってこれ、ちゃんと銀さん宛になってますよ?差し上げますって・・・」
「いいから投げろ!」
銀時は唖然とする新八から文庫本を奪い、開け放たれた窓へ放り投げた。
カバーのない文庫本は大きな蛾のように窓枠にぶつかり、バサリと開きかけて部屋に落ちかかった。
「差し上がりませんっつってんだごらぁぁぁぁあ!!!」
布団から跳ね起きた銀時の足が、それをジャストミートして表へ送り出した。
ポカンとしている新八と神楽を尻目に布団に潜り込む。
「あ"ー、気分悪ィ。頭来る。塩撒いとけ塩!」
「塩なんかありませんよ、味噌ならちょっと残ってるけど・・・」
「じゃ投げとけ、味噌を!もォ知らねえよ、俺は!」
びじょ・・・っ
編み笠を被った頭に湿った衝撃を受けて、桂は否応なしに顔を俯けた。
足元に、カバーのない文庫本。
「・・・往来に書物を打ち捨てるとは、何たる野蛮な・・・」
何故か味噌臭い笠の庇を上げて、桂は足元の本に見入った。
結構前に流行った文庫本だ。周りの志士たちが騒いでいた覚えがある。
「ふむ。今会いに来るのか・・・随分積極的なタイトルだな。今が今来られても困るが、暇のあるときなら構うまい・・・何だ?エリザベス?」
ガッシと腕を掴んで首を振る相方に桂は眉をひそめた。
「どうした?猫ババではないぞ?見ろ」
色褪せた表紙に朱の殴り書き。
銀時様。差し上げます。
「ん?銀時宛?いや、こうしたものは見付けたもの勝ちだ。ヤツも共に死線を潜り抜けた男、それくらい承知の上だろう・・・てか、離せ、エリザベス。マジ止めろ。痛いから。腕もげちゃうから。握力凄すぎ。手加減しろ」
エリザベスの手を振り払って、桂は文庫本を拾い上げた。
「さあ、行くぞ、エリザベス・・・え?今更そんなモン読んでも時代には追い付けない?・・・・・・何を言ってるんだ。そんな理由で拾った訳じゃな・・・いや、違う。話についてけなくて寂しかったとか悲しかったとか、そんなんじゃないから!は?呪い?何ソレ、どんなの?美味しいの!?」