第3章 絵から吹く風ーハリー・ポッター、ルーナ
ぎゅっと目を閉じた瞬間、真後ろから髪も服も全部持っていかれそうな風がゴッと吹いた。
「・・・・・・ッ!」
身を縮めたルーナを甘い風が通り越して行く。
「ギャンッ」
打たれた犬のような鳴き声がして、ドサッという鈍い音が部屋を震わせた。
「哀れな」
淡々とした声が語りながら傍らを行きすぎるのを感じてルーナは恐る恐る目を開けた。
「人には人の愉しみ、獣には獣の悦びがある。意に染まずに二形となったばかりにどちらも容れられぬとは、酷い事だな」
なよやかな肩の線、柔らかい臀部の丸み、豊かな黒髪に、尾先の白い真黒な尾。
半口を開けたフレッドとジョージ、壁際に横たわる大きな狼、風も月明かりも止まない。
「・・・さて・・・・・・」
振り返って!
お願い、こっちを見て!
顔が見たい。
・・・怖い・・・。
怖いけど、嬉しい。会えた。アンタに会えた。
「今の私は獣に非ず人に成らず、あまり目を合わせていいモンじゃない」
声が優しく言う。尾が、言い聞かすようにクルリと円を書いた。ふわりと花が匂った。
「お前たちには、楽しませて貰った。お陰でつまらぬ画中の退屈が凌げた。友達になれそうに思うが、今この身ではそれも叶わぬ。残念だな」
濡れたように艶めく髪とフサフサした尾を振りながら、狼の傍へ歩み寄る姿は気さくげなのに怖い。
「この男、私が連れて行こうか」
何の気なしに言われて三人の声が一気に揃った。
「え、ええ!?駄目だよ‼」
「な、何でそうなんの!?」
「マズイだろ、それ!」
クスッと笑い声が返ってきた。
「苦労ばかり多いと思うが・・・そうだな。歓びもあるか。いいだろう。では、全て収められる者を連れて来い。私もそろそろ帰りたい」
不意に部屋が真黒になった。
あっと出かけた声が、パッと灯った照明に照らされて引っ込む。
壁際にボロボロの服を被ったルーピン先生がぐったりと倒れている。
テーブルの上には紐が解けかかったカケジク。
ただ部屋中に、ウメが、・・・バイカが一杯に香っていた。