第3章 絵から吹く風ーハリー・ポッター、ルーナ
目。
穏やかで草臥れた優しい目が、今はただ苦しげにルーナを見返した。僅かに残るルーピン先生の欠片が閃いて、逃げてくれと哀願しているように見えた。
でも、それ以外のリーマス・ルーピンは最早見当たらない。そこにいるのは、一頭の狼ー・・・人狼だ。
ルーナは弾かれたように双子の手を逆に取り、先生から、先生が変わってしまったものから距離をとった。
「どうしよう!どういう事!?」
両手を顔の脇に上げかけて拳を握り、ルーナは大声を出した。
「それがわかりゃ苦労しない」
慎重にルーナと狼の間に身を滑り込ませながらフレッドが上ずった声で答える。
「ちくしょう、他に出口はないのかよ!?」
ジョージが隙のない目付きで辺りを見回して舌打ちする。
人狼は、ドアと三人の間に陣取って頭を低く伏せ、月明かりに目を赤く光らせている。足にかかる重心が見るからに軽い。切欠ひとつでいつでも飛び掛かれる体勢だ。
フレッドが無理に口角を上げて相方に声をかけた。
「落ち着けジョージ。焦りは禁物だ」
ジョージが苦く笑って答える。
「頭を回せフレッド。あの地図だ。思い出せるか」
「お前の記憶にないものが僕の頭にあると思うか?」
「ヤな事言うな、相棒。でも、そうだろうな」
「この部屋に抜け道はない」
「大先輩すらご存じないものが見つけられればしめたモンだが」
「生憎そんな暇はなさそうだな」
「ああ、残念だ。相棒」
こんなときなのに、ルーナは笑い出しそうになった。
この二人ってば、ホントにどこまでもウィーズリーの双子なんだ。
今一緒にいてくれるのが、この二人で良かった。
人狼が、更に低く構えた。
「・・・フフ・・・ッ」
可笑しげな笑い声がした。含み笑う愉快そうな響き。
「何がおかしんだよ、ルーナ」
フレッドが聞き咎めて声を尖らせる。
「笑ってる場合か?大物だな、レイディ」
ジョージの呆れ声が続く。
「え?違う、アタシじゃない・・・・・・」
呆気にとられて言いかけたとき、狼が思いがけない優雅な形でしなやかに飛び上がった。
あるがままの体をあるがままに扱う野生ならではの粗暴な優雅さ。
あっという間もなく双子を飛び越えて目の前に迫った赤い目に、ルーナは身動きひとつ出来ずにただ見入った。
やられる!