第3章 絵から吹く風ーハリー・ポッター、ルーナ
解かれたカケジクは香った。風を吹かせながら。
山と花が吹き付けて来る。目に見えるのではない。香りからとめどなくイメージが溢れる。
沢山の動物や植物の気配。
ベアー、ディアー、スクァーレル、ラクーンドック、ラビット、メープル、オーク、チェスナット、ホワイトバーチ・・・チェリー・・・?違う?これが・・・ウメ・・・?淡いのに艶やかな花。丈の低い樹の武骨な枝振りを、愛らしい花が彩っている。
最後に、フッと息を吹き込むように鮮やかな一景。
梅の根本に尾先の白い雌の黒狐。美しい尾を伸びやかに手入れしながら、満足そうに怠けている。
辺りが暗くなった。
ああ、出てくるんだ。
胸がぎゅっとするような興奮を覚えながら、でもルーナはルーピン先生からも目が離せなかった。
先生はカケジクを解いた瞬間からギクリと体をすくめて顔を覆ってしまって、それきり。
「・・・嘘だろ・・・?」
「・・・マジかよ・・・」
カケジクの興した不思議にフレッドとジョージが、唖然とした、でも興味と興奮にはち切れそうな声を洩らす。
より強く香ばしく甘酸っぱい芳香が部屋を満たす。
いい匂い。
カケジクが細長い窓のように薄明かるい灯りを灯している。
月だ。あの小さな円い月が、水が低いところへ流れるような、白々と真っ直ぐな光を放って、部屋の暗がりを隅々まで照らす。
凄い満月。・・・・・・凄い満月・・・
思わず月に見入ってうっとりしたルーナは、ルーピン先生のうめき声にハッとした。
「ウイィーズリイィ!!!」
先生の声とは思えない先生の声がガラガラいがらっぽく雄叫びを上げる。
「ルウゥナを連れてえェ逃げろおォォ!!!」
ゴボゴボと溺れたように苦しげな叫び声に、ルーナの目が零れ落ちそうになった。
「先生・・・?」
思わず、前に出たルーナの手をジョージがぐいっと力任せに引いた。
「バカ、止せッ」
よろけたルーナをフレッドが支える。
「よく見ろよ、あれが先生に見えるか?」
ルーナは改めてルーピン先生を見、息を止めた。
鼻面がメキメキと伸びている。手が、手の形が見る間に変わって行く。全身に強い毛が生え、背骨が弧を描き出し、口元から牙が溢れる。