第3章 絵から吹く風ーハリー・ポッター、ルーナ
「でなきゃ考えた事がないだけか」
「どっちにしても今そんな事はどうでもいい」
「後でゆっくり語り合おうなんて期待されても困るけどな」
「何せ僕らは忙しい」
「だからどっちにしてもそんな事はどうでもいいって訳だ」
「ルーピン先生を部屋から出せ」
ハーマイオニーをやり過ごしながらジョージがひそひそと言った。
思い詰めた顔で行き過ぎるハーマイオニーにルーナの胸がキュッと縮むように痛んだ。
ごめん。ハーマイオニー。
でもルーピン先生の手に渡ってしまったカケジクが気になって仕方ないのもホントなの。
「ちょっとの間でいい。まだカケジクは渡されたばかり、隠されたりしてないだろう」
「頭を使え、ルーナ。僕たちがカケジクを取り戻すまで、何とかヤツの気をそらすんだ」
「部屋に鍵をかけさせるな。僕たちが忍び込めるように」
「急ぐんだ。そら、ヤツがドアを閉めちまう」
「あの、先生!」
何か思い付く間もなく声が出た。
双子がサッと身を退いたのがわかる。流石素早い。ルーナはちょっと笑いそうになった喉を鳴らして、生唾を呑んだ。
ルーピン先生がこっちを見てる。どうする?何て言おう。
「ルーナ」
先生は穏やかな目で、声をかけて来たのに離れたところに突っ立ったままのルーナを見た。
草臥れた優しい目。
「・・・先生、あの・・・」
言い淀んでクルッと視線を巡らせたルーナに向かって、先生が足を踏み出した。
一歩、二歩、三歩・・・
ああ、どうしよう。
振り向いて双子がどうしているのか確かめたい衝動を堪えながら、ルーナはじっと先生を見返した。
「ルーナ・ラブグッドだね。グリフィンドールだったかな」
優しいけど見透かすような澄んだ目は、どうしてか草臥れてるだけじゃなく、悲しそうにも苦しそうにも見える。
こういうの、苦悩って言うんじゃない?そんな目。
フッとルーピン先生の後ろを二つの影が過った。ウィーズリーの双子だ。
でもルーナはルーピン先生から目が離せなくて、双子の姿をしっかり確認出来なかった。二つの影は僅かに開いていたドアの隙間に吸い込まれるように消える。
ルーピン先生が笑った。
まるで双子の事がわかってるみたいなタイミングで。
ルーナは目を皿のように開いて先生の笑顔を眺めた。先生はもう目の前にいる。