第3章 絵から吹く風ーハリー・ポッター、ルーナ
その不思議な絵は、色褪せた豪奢な縫い取りで彩られたオリエンタルな厚手の布に丹念に貼り付けられていた。
全体が縦に細長く、描き込みのない白い空間が多いのが物珍しい。中心から少し左寄りに 黒一色、着物を着た獣の擬人化した姿が描かれており、その斜め上に、月、小さな円がちょんとある。美しい下布にそぐわないような素っ気なさだ。
「カケジクっていうの。タリスマン、魔除けなんだよ。パパから貰ったンだ。スピリットが宿ってるんだよ」
グリフィンドールの談話室、ネビルとロンを相手にルーナが説明した。
ルーナの身長に追い付く程の丈があるカケジクは、上下に円い棒が通されていて、どうやら壁に吊って飾るものらしい。
「魔除け?このきったない絵が?色もついてないし、犬だか狐だかわかんないのはあっち向いちゃってるし、ちっともいいとこないように見えるけど」
ロンってもうちょっと考え深かったらもっと素敵なのになってよく思う。おバカなロンも嫌いじゃないけど、たまにちょっと呆れちゃう。
ルーナは小さく肩をすくめる。
その隣でじっとカケジクを見ていたネビルが、うーんと唸って体を退いた。
「何だか怖いね、この絵」
「ええ?何で?どこが怖いんだよ、こんな落書きみたいな絵」
ルーナは、アンタバカみたい、と言ってやりたいのを我慢して、ロンを無視した。
ロンはいない事にしてネビルをじっと見る。
このカケジクの事、ネビルなら解ってくれるんじゃないかと思って。
「ネビル・・・・」
「落書きじゃないよ。綺麗な雌の狐の絵だよ」
ネビルが、真顔でロンに言う。
ルーナはクッと目を見開いた。ネビルの肩を掴んで揺すってやりたいくらい興奮する。
そうだよ!アタシもそう思った!ネビル、アンタ凄いよ!
なのにロンは、付き合ってらんないよと呟いて、頭の後ろで手を組んだ。何かの用事でハリーとハーマイオニーがいないから、暇潰しにアタシらに付き合ってたんだってのが見え見え。ムカつくけど憎めないんだよね。だってロンは、そんな自分がわかってないんだもん。しょうがないよ。
チラチラ談話室のドアを見ているロンを放って、ルーナはネビルの顔を覗き込んだ。
「この狐ね、いざというとき、紙から出て来・・・」
「珍しい組み合わせで難しい顔して、一体何の悪巧みかな?何が紙から出て来るって?」