第10章 オバケなんてねえよ。居たら困んだよ。ー銀魂、真選組ー
言いかけた土方がすぅっと青くなって、一転ガタガタと椅子を鳴らして近藤の隣に座り込んだ。
「ん?何だトシ。腹減ったのか?しょうがねぇなあ。ほら、あー…ヘブッ」
フォークに刺した肉を口に寄せて来た近藤に裏拳をかまし、土方はカタカタと貧乏揺すりした。
「近藤さん。土方バイトがビビってやすぜ。こらもしかしてさっきの女ァ、ザキが言ってやがったオバ…」
雑炊を啜る沖田に、紙ナプキンで鼻血を拭いた近藤が顔を顰める。
「おいおい、失礼な事言うな。あの後ろ姿は明らかにピチピチの娘さんだ。オバさんじゃねえぞ」
「いや、近藤さん。俺が言いてぇのはそっちのオバじゃねぇんで。オバはオバでもぶっちゃけありゃもう死ん……」
「デレラ?」
「………十二時はとっくに過ぎてそろそろ丑三つ時ですぜ…」
「おう。早く食っちまわねえと明日に差し支えるな。最近夜遅くに食うと朝胃が重くてよ。いやぁ、年かな俺も。ぼちぼち嫁さん貰って落ち着かねぇといけねえかなとか思うんだよ。うちに帰るとあったかい手料理と優しい嫁さんが待っててくれるみたいなよ、いや贅沢は言わねえよ。俺の体を労ってくれる心のこもった料理と気立ての良い嫁さんとな。それだけでもう何もいらねえみたいな、な!例えばホラ、お妙さんとかお妙さんとかお妙さんとか」
「生き急ぐにも程がありやすよ、局長。心のこもった料理も気立ての良い嫁もアンタにしか見えねえ蜃気楼ですぜ?息の根止めにかかってくる料理と狂暴な嫁ってのが実像でさぁ。目を覚ましなせえ。新婚三日内にしにやすよ」
「まんま結婚は人生の墓場ってヤツだな。これに限っちゃ全く沖田の言う通りだぜ、近藤さん」
「喫煙も墓場への近道なんですぜ。吸い殻の山ァ冥土の道の一里塚ってヤツでさぁ。ちょっとイイ話でさぁね。今度給料注ぎ込んでどかんとカートンの山ァ贈呈しやすよ、土方バイト」
「…煙草にも消費期限があんだよ。俺ァ湿気った煙草なんざ吸わねえぞ」
「気ィ遣うなよ、土方バイト」
「…遣ってねぇよ。誰がオメェなんかに気ィ遣うか。それよりその土方バイトってヤツ、マジで語呂が悪ィから止めろ。イラッと来る」
「イライラばっかしてっと腹に穴ァ空きやすよ。どんどんイライラしなせぇ」
「喧しい」
「ならとっとと死んデレラと万屋の旦那ンとこに行きなせぇよ。素敵な面子で素敵な一夜をお過ごし下せぇ」