第10章 オバケなんてねえよ。居たら困んだよ。ー銀魂、真選組ー
「カタカタしてんのはてめえじゃねえか。さっきっから手先が震えてっぞ、万事屋」
ファミレスの事務室。厨房の真横の一室で、土方は厄介な万事承りの万事屋と向き合って引き攣った笑いを口の端に貼り付けた。
「俺が震えて見えんのはオメェが震えちゃってるからじゃねえの?言っとくけどな、俺が震えんのは武者ってるときだけだかんな」
「ファミレスの事務室で何に武者ってんだよ、バカかテメ……」
ピーンポーン
ひいッ
店長代理とフードが呼び出しのチャイムに飛び上がった。
時刻は午前一時三十二分。
「ざけんな、ぐぉら!どこのドイツ人だこの時間に呑み食いしようって馬鹿タレは!」
「やかましいわ、店長代理。とっとオーダーとって来いでございますよ、このクソヤローが」
客席デザート対応のカスタマーも厨房でオーダー対応するフードも、経費削減の為この時間帯は一人ずつ。
「こんな時間に腹にモノ入れたら悪い夢をみるぞ。てかみろ、バカ。早く帰れっつの。こちとらお仕事ですよ!?いい気なもんだな、全くよ」
グズグズ言いながら銀時が仕方なさそうに腰を上げた。
「おい。背筋伸ばしてシャンとしろゴラ。お客様は神様だぞ?」
煙草に火をつけた土方が、グダグダの銀時を見かねて眉を顰める。
「俺ァ無宗教だっつの。神様なんか信じてねんだよ」
盆の窪を擦りながら客席に行った銀時に土方は舌打ちした。
「たく、仕事だろ、一応。シャンとしろってんだバカが」
煙と一緒に溜め息を吐き出し、フと違和感を覚える。
「さみィな…」
寒いは寒い。季節が季節なのだから当然だが、ほんのさっきまで暖房で程良く温かった事務所に冷気が忍び寄っている。
ー何処からだ?
土方は眉を顰めて立ち上がった。
事務所のドアは開いている。オーダーが入ったときに気付かないようでは困るからだ。しかし厨房も熱源が多いから然程冷える訳ではない。
「…ちッ」
厨房の隅、裏口脇にある冷凍庫の扉が僅かに開いていた。舌打ちした土方が冷凍庫に歩み寄る。
「冷凍庫開けっ放しにしてたら電気代がかかんだろうがよ、ボンクラ店長代理が」
冷気を吹き流す扉の隙間が黒い。電灯を切ってあるのだから当たり前だが、土方は煙草を噛んで眉を顰めた。