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すうら、すうすう。

第8章 軍隊狸ーゴールデンカムイ、月島ー


「敵兵が現れたとして二人では心許ない」

味噌汁の冷たい温かいで犬死にする気はない。雑嚢に残っている乾麪包を沢の水で流し込む気でいた俺にしてみれば、生味噌が出て来た事が既にして大した僥倖だ。

「まーたそいな事を抜かされますか。安心なされ。儂がぼた餅程の太鼓判を捺しますわ」

こいつが鏡餅程の太鼓判を捺そうとも、てんで安心出来る気がしない。
俺は黙々とワッパの味噌を木片で掬い上げた。

「ちょちょちょ!待ちなされ!待ちなされ!ほれ、月島殿、先ずはこれを御覧じろ!」

玉木某が雑嚢の中からあたふたと油紙の包みを二つ掴み出した。潮臭い匂いが鼻孔をつく。

「これを見てもまだぼっこげな事ォ言わっしゃりますかいな!」

ガサガサと開かれた油紙の中身は、鰈か平目の様な魚の小さな干物と、切り昆布とひじきの間の子みたような乾物だった。潮臭いのも当然だ。それにしてもこいつは一体何をしに大陸まで来たのだ。酒に生味噌、干物に乾物。そんなものを携えて、物見遊山でもするつもりか。大体大雑把に見てもこいつの雑嚢は許容量が可笑しい。明らかに物が入り過ぎている。何処か違う次元に繋がってでもいるのか、あれは。

「…玉木一等卒。何を見ても何があっても焚き火から上がる煙が目立つ事に変わりはな…」

「あーーーー!!!こげにうまげなモンを見てもそいなぼっこをおっしゃられる!?こら煙で集まらんでも儂の雄叫びで露助の集まりましょうやな!あーあー、あーーーーーー!!!!」

「……。玉木一等卒。話を聞…」

「あーーーーー!!!!!」

…何故隊を離れて山で迷ってまでこういう輩の世話をしなければならないのだ。どうして何処に行ってもこういう手合いに振り回されるのか。
目を真ん丸にして大音声で叫び続ける玉木某をじっと見ながら、俺はまた諦めた。

「玉木一等卒」

「あーー、あーーー、あーーーーー!!!!」

「玉木一等卒」

「あーーーーあーああーーーーー!!!!!」

「煩い」

ごつんと頭に拳骨を食らわせたらば、やっと叫び声が止んだ。殴られたところを擦りながらきょとんとこっちを見る面妖な男に、出かかった溜め息を噛み殺す。

「わかった。好きにしろ。但し、警戒を怠らな…」

ガツンと鈍い音がして目をやれば、玉木某が干物を石で叩いている。

「…今度は何をしている」
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