第11章 【甘】とっておきのお菓子/及川徹・岩泉一
作りすぎたかと思った料理たち、成長期の二人の前では寧ろ足りない位だった。
「うん、美味しい!遥香ちゃんいいお嫁さんになるよ!」
「徹に褒められても嬉しくない。」
「うまいぞ。」
「ありがとう、はじめちゃん。」
「なんで?俺だって同じ事言ったのに!昔は徹君、徹君って、あんなに可愛かったのに!」
両手で顔を覆い泣き真似をする徹。徹だって昔はこんなんじゃなかったじゃん、って言葉はパンプキンパイと共に飲み込んだ。言ったら余計面倒臭いし。
久しぶりに三人で食べるごはん。楽しいひと時だった。徹もはじめちゃんも元気そうだし。二人のいつも通りの姿を見てホッとした。昨日の今日だし、もっと凹んでるかと思ったけど、余計な心配だったかな?
「てか、魔女の洋服あるじゃん!」
部屋の隅、開けたままにしたキャリーバッグから徹がそれを指さした。しまったと思ったけど、時既に遅し。
「遥香ちゃんこれ着てよ!」
「イヤだよ。」
「着るつもりで持ってきたんじゃないの?」
「違うもん!徹とはじめちゃんに元気出してもらおうと思って慌てて準備してきたからたまたま荷物に紛れてただけだから!」
しまった…!
「俺らの事心配して来てくれたんだ?」
ニヤニヤとした笑みを浮かべる徹。元気づけるとか言うつもりなかったのに。私の馬鹿!
「…俺らさ、今年こそは全国行って、遥香ちゃんに試合見てもらおうと思ってたのに。ごめんね、負けちゃって。」
「ううん!ベスト四だって凄いよ!」
「遥香ちゃんに心配させまいと元気なフリをしてたけど、ごめんね、本当は結構凹んでる。」
さっきまでの明るい笑顔はどこへやら。徹は暗い顔を浮かべた。その徹の姿に心が傷んだ。
「でもね、遥香ちゃんがこれ着てくれたら元気でそう!」
「うん分かった!…は?ええ!?」
「はい、じゃあお着替えよろしくね。」
今度は洋服を渡され私が部屋を追い出された。…騙された!