第40章 【甘】マイヒーロー/岩泉一
私達の関係が大きく変わったのは二年生の頃。
及川は二年生にして青城の正セッターに。元々華やかな容姿で、誰にでも愛想を振り撒く八方美人な及川は中学時代もまあそれなりに人気のあったが、青城の正セッターになった事で爆発的に人気が出た。及川見たさに青城の試合には女の子が殺到。三年間の殆どの時間を及川と共に過ごした私からしてみれば、何故そんなにも及川に夢中になるのか分からなかった。確かにバレーをしてる及川はカッコいいとは思う。けど、中身がアレだもんなあ。遠くから見る分には構わないけど、彼氏とかそういうのは絶対嫌だ。なんて思ってたら、春高予選の初日、及川の取り巻きに囲まれた。なんで私がって思ったけど、開会式の際に私と及川が話してるのを見て彼女らはただならぬ関係だと思ったらしい。加えてインハイ予選の事もあって彼女達の疑問は確信へと変わったらしい。こういう時に限って、チームメイトである鎌先達が近くにいない。大事な大会中だし、問題は起こしたくない。この場をどうやって切り抜けようかと思ったが、こんな状況でいい案なんて思い浮かぶ訳もなく、彼女達から投げ掛けられる乱暴な言葉に黙ってる事しか出来なかった。
「俺の彼女に何か用か?」
そう言って私のピンチに颯爽と現れたのが岩泉だった。あの岩泉の口からそんな言葉が飛び出しくるとは思わず、驚いた。私を取り巻く女の子達を掻き分け、私の肩を抱いて助け出してくれた岩泉は正にヒーロー。今まで岩泉に対してドキドキしたりとか、それに近しい感情を抱いた事は無かったのに、その姿に思わずドキッとしてしまった。
「…悪かったな。俺の彼女なんか言って。」
「ううん、問題起こす訳にもいかなかったし、助かった。ありがとう。」
「…こんな時に言うのもアレなんだけどさ、」
普段からサバサバしてる岩泉。それが珍しく歯切れの悪い言葉に一体何を言わんとしてるのかと、その言葉の続きを待った。
「さっきの言葉、事実にしたいって思ってんだけどダメか?」
「それって、」
「ずっと逢崎の事が好きだった。」
恋愛には無頓着そうな岩泉からの突然の告白。驚きはしたが、私はその言葉に私で良ければ、と返事をした。
それが私と岩泉が付き合う事になったキッカケである。