第36章 【切甘】居場所/白布賢二郎
「青城の及川の妹なんだって?」
男子バレー部に入部して早々向けられたその言葉。先輩から掛けられた言葉だったが私はお構い無しにその相手を睨み付けた。
「そうですけど?」
「なんでウチに来たんだよ?」
「徹が嫌いだからです。徹の嫌がる事したかったから。」
その言葉に先輩である白布さんは笑った。クールな人だと思っていたから、その笑顔に少し驚いた。
「及川、お前面白いな。」
「私はちっとも面白くありません。後及川って呼ぶのやめてください。徹と同じ名前で呼ばれるの不愉快なんで。」
そんな私の我儘に笑って応えてくれた白布さん。北一にいた時は徹の影響もあって、及川妹としか呼ばれなかった私は名前で呼ばれる事が何だか新鮮に感じた。白鳥沢のバレー部の人は皆私の事を名前で呼んでくれるようになった。北一では皆私を及川徹の妹と認識していた為、名前で呼ばれるよりも〝及川妹〟と呼ばれる事が多かった。それは徹が卒業してからも続いた。それが何より苦痛だった。及川遥香という存在ではなく、及川徹の妹という存在にしかなれない私。どうしてお母さんは私の事をお兄ちゃんや徹みたいに美形に産んでくれなかったのか。どうして誰にでも好かれる性格に産んでくれなかったのか。どうしてスポーツ万能になるよう産んでくれなかったのか。お母さんのお腹の中にあったいい所をきっとあの二人が全部持って行って産まれてしまったんだ。だから私は二人の妹なのに平凡なのだ。