第34章 【切甘】近過ぎて見えなかったもの/瀬見英太
「あー学校行きたくない。」
だが、学校は目と鼻の先。仮に休んだ所でご飯は食堂。嫌でも英太に会う。身支度を済ませ、私はいつもより三十分早く寮を出て朝食を取るべく食堂へと向かった。いつもより早く食堂に来た為、英太をはじめとする、いつも一緒に食事を取るバレー部の三年もおらず、私は席に着いて食事を取り始めた。
「おはようございます。一人ですか?」
「あ、おはよう。」
「ここいいですか?」
「どうぞどうぞ。」
そう言って向かい側の席に腰を下ろしたのは一つ年下の川西君。なんか意外だな。川西君って朝とか超遅そうなのに。
「今、俺が早起きするなんて意外だな、とか思いました?」
「あは、バレた?」
「俺だって早く起きる日もあるんですよ。逢崎さんこそ一人なんて珍しくないですか?」
「うーん、そうだね。いっつもバレー部の誰かといるしね。」
「バレー部の誰かって言うか、瀬見さんですよね。」
「もう高三なんだし、いつまでも一緒って訳にはいかないでしょ。」
そう自分で口にしたものの、その言葉に酷くダメージを受けた。
「大学だって同じ所行くんすよね?」
「まさか。英太は東京。私はこっち。」
「そうなんすか?」
「そうなんです。」
まあ、英太が東京の大学を受験するって知ったのは私も昨日の事で、それを完全に受け入れられた訳じゃない。
「てっきり同じ所に行くのかと思ってました。」
私も昨日まではそう思ってましたとも。でも、そんな事川西君に言える訳がなく、適当に返事をした。
「じゃあ、逢崎さんは瀬見さんとまだ付き合ってないんですね?」
「まだって何さ。未来永劫、英太と恋人同士になる予定はないけど。」
「なら、俺にもまだチャンスは残ってるって事ですね。」
「え?」
「おう、珍しい組み合わせだな。」
「山形さん、おはようございます。」
「おー隼人早いね。」
引っかかるような言葉を言われたが、隼人の登場でその後それについて触れることはなく食事を取り終えた。