第34章 【切甘】近過ぎて見えなかったもの/瀬見英太
「俺がその答えを教えるのは簡単な事だが、今それを言ったところで遥香はそれを受け入れないと思う。だからこの先はじっくり自分で考えろ。」
そう言って優しく頭を撫でてくれた。獅音の言った言葉の意味はよく分からなかったけど、獅音が私の事を大事に思ってくれているという事は伝わった。私に何かを分からせたくて、そんな風に言ってくれてるのだと。
「泣いたらちょっとスッキリした。ありがとう獅音。」
「俺で良ければいつでも話を聞くから、何かあったら言えよ?俺にとっては遥香も大事な仲間だから。」
「ありがとう。」
そう言って獅音の部屋を出て、女子寮へと戻った。そして、机に置いていた進路希望調査の用紙を見つめる。既に記載された宮城の大学の名前。それを東京の大学の名前を変更しようかと思ったが、何も言わなかった英太にわざわざ進路を合わせる必要はない。そう思ってカバンの中にそのままプリントを突っ込んだ。
中学の時は進路の事話してくれたのに。白鳥沢に行こうと思ってんだけど、遥香も白鳥沢受ける気ないか?そう英太に言われ、私は白鳥沢を受けた。
「…中学の時は、そう言ってくれたのに、なんで言わないのよ馬鹿英太。」
そりゃあ私は女だし、バレーも出来ない。仮に私が男でバレーをしてたとしても、私は若利のような選手に絶対なれない。英太にお前にトスを上げたいなんて言わせることなんて絶対無理だ。いいなあ、若利。私も若利になりたかった。英太の一番はずっと私だと思ってたのに。こんな事なら、水泳じゃなくて、私もバレーをするべきだった。大好きな水泳に対してそんな風に思ってしまうなんて、私どうかしてる。