第34章 【切甘】近過ぎて見えなかったもの/瀬見英太
「遥香?」
声を掛けられ、振り返ると、どうした?と心配そうにこちらを見つめる獅音がいた。
「…獅音。」
「なんだ、珍しいな。そんな顔して。何かあったか?」
ダメ。今、そんな優しい口調で話し掛けられたりなんかしたら、今必死に堪えてたものが、
「俺で良ければ話を聞くぞ?」
だから、そんな優しい声で…ダメだって。
「獅音のばかあ…っ!」
ほら、言わんこっちゃない。獅音の優しい声と言葉に堪えていた涙が滝のように流れ落ちた。我ながら女の子らしからぬ豪快な泣きっぷりだ。そんな私に獅音は、優しく背中を摩ってくれた。
こんな所で泣いてたら目立つから、そう言って獅音は自分の部屋に私を招き入れてくれた。
「ごめんね、獅音。突然泣き出したりなんかして…。」
「遥香が泣くなんて、よっぽどの事があったんだろう?俺で良ければ話を聞くぞ。」
優しい獅音に甘え、私は先程の件を話した。英太が東京の大学へ進学する事を黙っていた事がショックだった事。若利と一緒にバレーを続けたいと思ってる事を黙ってた事が悲しかったと。そんな事で泣くなんて自分でもどうかしてるとは思ったけど、なんだか英太に裏切られたみたいで悲しかった。私は英太の事を何でも話せる親友だと思っていたのに、そう思ってたのが私一人だったっていう事実が酷く悲しかった。
「俺も男だし、英太の気持ちは分かるよ。」
「獅音は英太の味方なの!?」
「いや、分かるって言っただけだ。」
「…男は進路先を言わない生き物だとでも言うの?そりゃあ私は女だし、そこんところは理解してあげられないかもしれない。けど、英太の一番の親友だって、思ってたのに、」
「なあ、遥香。確かに英太に進路の事とか何も相談されず悲しかったかも知れない。けど、それは遥香が英太の親友だから悲しかったのか?」
「…どういう意味?」
「他に悲しかった本当の理由があるんじゃないか?」
獅音の言葉の意味が私には理解出来なかった。
「お前達は一番近くにいたから、近くにいたからこそ、分からなかった事もあるって意味だ。それが、今英太と離れるかも知れない、そう思って気付けた事があるんじゃないか?」
「…んと、よく分かんないんだけど。」