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【WJ】短編

第25章 【甘】後ろの席の山口君/山口忠


 そして何もないまま迎えた放課後。家庭科部である私は、ちょっとお菓子作り過ぎちゃったから、もしよかったら、なんて言ってプレゼントを渡すつもりでいたけど、放課後家庭科室でお菓子を作って、それを体育館に持って行って、山口君を呼び渡さなければならない。作り過ぎちゃった、なんて言い訳をつければ渡しやすいと思ったのだけど、作り過ぎたからと言って、わざわざ家庭科室から離れたバレー部が練習する体育館に持って行くのは不自然じゃないだろうかと今になって思う。だけど、もうケーキは焼き上がってしまった。しかも結構上手く焼けた。力作だ。


「悩んでたって仕方ないでしょ?とっとと行ってきなよ。当たって砕けろだよ。」


 友達に背中を押され家庭科室を追い出された。出来ることなら砕けたくはないのだけど…。なんて思いながら重い足取りで体育館へと向かった。

 体育館に近付くと、キュッキュッとシューズの擦れる音が聞こえ、小窓からこっそり覗くと、練習に打ち込む山口君の姿。…カッコいい。つい夢中になって練習を見ていたため、私は後ろにいる人物に気付かなかった。


「何やってんの?」
「つ、月島君…!」


 背後から声を掛けられ、ビックリして飛び跳ねた。後ろに月島君がいたの、全然気付かなかった…。カッコいいなんていって人気な月島君だけど、背は高いし、目は怖いし、喋り方も怖いし、私は月島君が苦手だった。だからクラスで喋る事も殆どない。
 何もかも見透かしてしまいそうな目に見つめられ、先程家庭科室で焼いたケーキを持つ手に汗が滲んだ。


「山口。」


 急に山口君に声を掛けた月島君。どうしたのツッキー?と言う声と共に近付いてくる山口君に私の心臓は飛び跳ねた。なんで、今、このタイミングで山口君呼ぶの…!


「あれ?逢崎さん?ツッキーと一緒にいるなんて珍しいね。」


 うわあ…!山口君が私に話し掛けてくれた!どうしよう!嬉しい!…じゃなくて、ど、どうしよう!?


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