• テキストサイズ

【WJ】短編

第23章 【切甘(R18)】閉じ込めた恋心/及川徹


「及川さん、及川さん!」


 聞きなれたその声に振り返ると、及川君の腕にぎゅっとしがみつくあの子の姿。うわあ、あれやられたら男の子は堪んないだろうな。大きな胸が、及川君の腕をぎゅうっと挟んでいた。それに普段通り、優しい笑顔を浮かべその子と話す及川君にぎゅっと胸が痛くなった。彼女は手招きをし、及川君が彼女の身長に合わせ少し屈むと、及川君の耳元で何かを囁いた。すると及川君は嬉しそうに笑った。そんな生徒の微笑ましい姿に胸を痛める自分がちっぽけな人間に見えて仕方なかった。


「遥香ちゃん先生。」


 及川君と目が合った。私の名前を呼んだ及川君は彼女から離れ、私の方へ小走りで駆け寄ってきた。それが少し嬉しかった。


「それ俺持つよ。」
「大丈夫よ。」


 そう言ったのに、及川君は私の手から荷物を取り、複雑そうな表情を浮かべるあの子に、またねと手を振った。


「遥香ちゃん先生、行こう。」


 彼の好意を無下にする訳もいかず、彼女には悪いと思いながらも、及川君に甘える事にした。


「さっきの子よかったの?」
「うん。」
「別に大荷物って訳でもないし、これくらい一人で平気なのに。一々私に気を遣わなくていいのよ?」
「だって、手伝ったら遥香ちゃん先生と一緒にいれるでしょ?」


 その言葉に私はまたドキッとしてしまった。普段と何一つ変わらない表情で、さも当然のように掛けられた言葉。相手は五歳年下の高校生。そして、生徒。私は先生。呪文のように何度も何度も心の中でその言葉を唱えた。


/ 261ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp