第5章 深遠の記憶
「いいや…俺の名前は翔だよ…嘘は言ってない」
「…俺達に近づいたのは訳があるのか?」
潤の問いに、翔は少しだけ俯いた。
「最初は…あった。B地区の勢力を測りたかった。だけど今は…」
「じゃあ俺たちを抱いたのも仕事?」
智が翔の身体を揺すった。
「好きって言ったのも嘘なの?」
「違う…違うよ、智…」
翔は泣き出した智の身体を抱き寄せた。
「嘘は…言ってない」
「翔…」
潤が翔の肩に手を置いた。
「わかった…ありがとう…」
「潤…」
「カズの話、してよ」
「ああ…」
翔は智の身体を離すと、頬を拭った。
「ごめんな…黙ってて…」
「ううん…」
智は潤の胸に飛び込んで胸を埋めてしまった。
潤はそっと智を抱きしめて翔の顔を見て頷いた。
それを見てたら、俺も…
「雅紀…」
「ん…?」
「だっこ…」
「…ん」
雅紀が俺の後ろに回ってベッドに座った。
「おいで」
後ろにもたれかかると、雅紀はぎゅっと抱きしめてくれた。
雅紀の体温が背中から俺を包んで、酷く安心した。
「…ありがとう…」
「いいんだよ…」
雅紀の声が震えた気がした。
「…じゃあ…続きを…」
翔は傍にあったスツールに腰掛けた。
「長くなる。座ろう」
外で、夜烏が鳴いた。