第1章 Area B
いつの間にか眠っていたみたいで、人の話し声で目が覚めた。
「だから…どうしてこんなところに…」
「どうする?向こうじゃ騒ぎになってるの?」
「いや…」
起き上がると、潤と知らない人がそこに居た。
「あ、起きた?」
潤がベッドに歩み寄ってくる。
額に手を当てると、少し笑った。
「薬、効いたかな」
後ろを振り返ると、知らない人を手招きした。
「なあ、あんたのこと便宜上ニノって呼ばせてもらうな?」
「え?なんで?」
「さっき、智から聞いた。いい?」
「うん…」
「…やっぱ、思い出せないんだな?」
「うん、思い出せない…」
知らない人が傍のイスに腰掛け、そっと俺の手首を握った。
脈をとっている。
「こんにちは、ニノ。俺は翔って言うんだ」
「あ…医者の?」
「ふふ…智が言ったの?」
「うん…さっき聞いた」
翔という人は、微笑んだ。
ネイビーのポロシャツに、カーキのカーゴパンツ。
お医者さんなのに、ここに忍び込むためにこんな格好してんのかな…
「そっちの手は痛い?」
「うん…少し…」
「じゃ、見ようか…」
翔は俺の手をとって、包帯を解いた。
被せていたガーゼを取ると、傷を丹念に見た。