第4章 Knockin' on Heaven's Door
「和也…どこいくの…」
マンションのドアを出ようとすると出てきた母さんは、まだ寝ぼけてた。
「ちょっとマーケットに行くだけだよ」
「何を買ってくるの?母さんが行くから…」
「いいんだよ。俺が行ってくるから」
俺の後ろに母さんが立った。
たたきに、裸足で立ってる。
「何を買うのか聞いてるの」
「え…?ちょっとドリンクとか買おうと思ってるだけだよ?」
「逃げようとしてるのね…?」
「なに言ってるの…?どこにも行かないよ?」
「母さんを捨てるのね!?」
「母さん!」
母さんは…本当におかしくなって…
いくら言っても、俺が母さんを捨てるって妄想から抜けられなくなってた。
今まで俺のマネージメントをしてたけど、それもできなくなって。
代わりの人を雇ったら、それがまた母さんをおかしくした。
「かあさんにはかずなりしかいないのよぉ…」
「わかった…わかったよ…母さん…」
小さくなった背中をぎゅっと抱きしめるしか、できなかった。
呪ったよ…
こんな声を持って生まれてきたことを…
こんな声さえなきゃ…
音感さえなきゃ…
普通の暮らしができたのに…
新聞を読む父さんが居て、鼻歌を歌う母さんがいて
たまご焼きの焼ける匂い
あたたかいリビングの音…