第1章 Area B
「とりあえずさ、後で医者くるから。診てもらおうよ」
「えっ…」
医者と聞いて身体が強ばった。
「い…いいよ…そんな…」
「どうしたの?ニノ」
「医者なんていらないっ…」
カシャンとトレイの上の食器がぶつかる。
アルミ製の皿だから、金属の高い音が鳴った。
なんでこんなに医者が嫌なのかわからない。
わからないけど、嫌だという感情だけが先走る。
「…翔は、大丈夫だから…安心して?」
そっと智の手が伸びてきて、俺の頬を撫でる。
「さ、飯食っちまおう?まだ熱あるから、解熱剤飲もうな」
智は立ちあがって薬を出してくれた。
また俺の隣に座って、ニコニコしてる。
だんだん落ち着いてくると、その笑顔がほっとするものだと気がついた。
こんな笑顔、久しぶりに見たかもしれない。
「ん?どうした?」
「…なんでもない…」
ゆっくりとシリアルを口に運んだ。
それはとても特別なもののように感じた。
フルーツに手を伸ばすと、智がそれを取り上げて皮を剥いてくれた。
「ありがとう…」
「いいよ。ホラ、口あけな?」
ぽいっと口の中に放り込んでくれたそれは、酸っぱかった。
口をすぼめると、智は爆笑した。